プロローグ
ゾンビ溢れる世界で、私は「視える」
世界は灰色に染まった。突如として現れたゾンビの群れが、生者の世界を侵食していく。文明は崩壊し、秩序は失われた。人々は恐怖に怯え、隠れるように生きることを余儀なくされた。
そんな絶望的な世界で、私は人とは違う力を持っていた。
それは未来を「視る」力。
正確には、数秒から数分先の、ごく短い未来の断片が、鮮明な映像として私の脳裏に流れ込んでくるのだ。
初めてその力に気づいたのは、ゾンビが徘徊する商店街で食料を探していた時だった。次の瞬間、頭の中に、自分が瓦礫につまづき転倒する映像が流れ込んできた。反射的に足を止めると、まさにその場所に隠されていた鋭利な金属片に気づいたのだ。
もしあのまま歩いていたら、大怪我をしていただろう。
それ以来、私の「視える」力は、生き残るための頼りになる羅針盤となった。
ゾンビが潜むであろう曲がり角。崩れかけた建物の危険な箇所。隠された物資のありか。私の目は、現在だけでなく、ほんの少し先の未来をも捉えることができる。
迫り来るゾンビの動きを予測し、危険を回避する。まるでスローモーションを見ているかのように、私はゾンビたちの攻撃をかわし、安全な道を選ぶことができるのだ。
しかし、「視える」未来は常に都合の良いものばかりではない。時には、仲間がゾンビに襲われる悲劇的な未来が映し出されることもある。
そんな時、私は必死にその未来を変えようと奔走する。だが、未来は常に確定されたものではなく、私の行動によって変化することもある。その不確実さこそが、この力の恐ろしさでもあった。
未来を「視る」力は、私に生きる術を与えてくれた。しかし、それは同時に、常に死と隣り合わせの緊張感と、未来を変えられないかもしれないという無力感をもたらす。
それでも、私はこの力と共に生きていくしかない。
視える未来が示す危険を回避し、わずかな希望の光を見つけ出すために。いつか、この力が、私だけでなく、他の生存者たちを導く灯火となることを信じて。
そして、もしかしたら、私と同じように、この過酷な世界で特別な力を持つ者が、ひっそりと生き延びているのかもしれない。いつか、そんな仲間と出会い、共にこの絶望を乗り越える日が来ることを、私は静かに待ち望んでいる。私の「視える」未来に、かすかな希望の光が灯ることを願って。