断片4 オリーブ2
彼は立ち上がり、背後に立つアンドロイドに近づいた。その滑らかな背中、肩甲骨の間に埋め込まれた小さなアクセスパネルに指を触れる。生体認証と簡単なシーケンス入力で、カチリと音を立ててパネルが開いた。内部にはメンテナンス用のポートと、いくつかの設定スイッチが見える。
彼は近くのコンソールからホログラフィックキーボードを呼び出し、アンドロイドの胸部に投影させた。メンテナンスモードに入り、基本的な個体設定メニューを開く。項目の中に「個別呼称(Nickname)」という欄があった。今は空欄になっている。
(名前……何がいいか)
彼は特に思い入れもなく、先ほど窓から見えた樹木のプレートを思い出した。
『再生の象徴 オリーブ』。そして、このアンドロイドのシリーズ名が「イヴ」だったことも。
(オリーブ…イヴ…。なら、「Olieve」でいいか)
彼は投影されたキーボードで、素早く『O・L・I・E・V・E』と打ち込み、最後に登録(Enter)キーを押した。コンソールのログには「個別呼称設定完了」と表示された。
「これでよし」と彼は思った。
アンドロイドは、設定が完了したことを認識したのか、わずかに顔を彼の方に向け、待機姿勢を取った。呼びかけに応じる準備ができた、という動作のようだ。
しかし、それだけだった。呼称が登録されたことを示す音声ガイドや、ディスプレイ表示の変化はない。
(……ん? 反応はしているようだが、声が出ないな)




