第一部 序章 病弱な少年と、村の守り神2
見たこともない四角い箱が光ったり、鉄の塊が空を飛んだり、数字や記号が複雑に並んだ数式だったり……。そんな、この村の生活とは全くかけ離れた、現実感のないイメージ。それが何なのか、どこから来るのか、僕にはさっぱりわからない。でも、その断片に触れるたび、言いようのない懐かしさと、同時に強い違和感を覚えるんだ。まるで、自分が自分じゃないような、そんな奇妙な感覚。
だから僕は、一人でいる時間が好きだった。
本を読んだり、空を眺めたり、あるいはただぼんやりと、頭の中の不思議な断片を反芻したり。
*
その日は、珍しく体調が良かった。
突き抜けるような青空が広がり、空気も澄んでいる。じっとしているのがもったいなくて、僕は久しぶりに村のはずれまで足を延ばしてみることにした。
緩やかな坂道を登り、鬱蒼とした森の入り口を抜けた先。
少し開けた場所に、それはあった。
「守り神様……」
村の大人たちがそう呼ぶ、古びた人型の像。
僕はまず、村のしきたりに従って、像の足元にある祭壇の前に進み出た。粗末だが丁寧に手入れされた木の祭壇には、今日も新しい花や木の実が供えられている。僕は静かに目を閉じ、両手を合わせて、日頃の村の平穏への感謝と、自分の体調が良いことへのささやかな感謝を祈った。これは村の一員として、当然の作法だ。
祈りを終え、顔を上げる。
そして改めて、祭壇の後ろに佇む像本体に視線を向けた。