第一部 一章 僕らの秘密基地 雨音と、石像の涙1
アストリア王国。その名を地図の隅っこに見つけるのもやっとな、小さな内陸国の、さらに辺境に位置する農村――カイム村。それが、僕、ノアが生まれ育った場所だ。
どこまでも広がる畑と、緩やかな丘陵。素朴な家々が点在し、風が運んでくるのは土と草いきれの匂い。平和で、穏やかで、そして少しだけ退屈な、世界のどこにでもありそうな村。
ただ、僕自身は「どこにでもいる少年」ではなかった。
物心ついた頃から、僕は病弱だった。
「マナ過敏症」――それが村の医者が下した診断名。
この世界を満たすという根源エネルギー「マナ」に、僕の体は過剰に反応してしまうらしい。強い日差しを浴びすぎると熱を出すみたいに、マナの流れが乱れたり、濃密になったりすると、途端に体調が悪くなる。目眩がして、息が苦しくなって、時には意識を失うことだってある。だから、同年代の子供たちが野山を駆け回っている間も、僕の指定席はもっぱら家の中か、日陰の窓辺だった。
父さん(アレン)は元魔法使いで今は村の先生、母さん(ゲルダ)は元戦士で今は凄腕の狩人。元気いっぱいの兄さん(カイア)に、心優しい妹。家族はみんな僕のことを心配して、とても大切にしてくれた。それは痛いほどわかっている。
それでも……心のどこかで、いつも小さな棘が刺さっているような感覚があった。
みんなと同じようにできない自分へのもどかしさ。
そして、もう一つ。時折、僕の頭をよぎる奇妙な“記憶の断片”。