プロローグ:水晶都市文明クリスタリア1
七色の光が乱反射する水晶の尖塔群が、空を穿つように林立していた。
人々は思考を糸のように紡ぎ、精神のネットワークを通じて互いを理解し合う。街を彩る光も、空を駆ける乗り物も、すべては彼らの精神エネルギー(サイキック・エナジー)によって形作られ、動かされていた。
それが、水晶都市文明と呼ばれる星の、永遠に続くはずだった日常。
調和と静謐に満ちた、完成された世界。
――その日、空に異変が起きた。
いや、正確には空ではない。世界そのものに、だ。
まるで完璧な水晶に走った微細な亀裂のように、それは認識の端に引っかかる、不快な“ノイズ”として現れた。精神ネットワークに微かな混乱の波紋が広がり、言いようのないざわめきが伝播する。
最初は、些細な違和感だった。
だが、“それ”は確実に存在した。
音もなく。形もなく。ただ、そこに在る。
冷たくて、暗くて、底なしの『飢餓』だけを宿した、名状しがたいナニカ。
やがてノイズは無視できない歪みとなり、クリスタリアの世界を侵食し始めた。
都市の輝きが、僅かに陰る。
精神エネルギーの循環が、淀み始める。
人々は原因不明の焦燥感や、悪夢にうなされるようになった。