第一話 天才"演技派"王子①
テンショウ4025年。
ここは人間の国、シンム王国。若き国王ミリマー・シンムが治める世界有数の人間の王国である。
シンム王国は近年平穏で平和な日々が流れている。事、城内を除いては……。
街の中心にそびえるシンム城。その城内から大きな怒声が響いている。
「偉そうに指図しないでちょうだい!!」
大きな声で怒っているのはユキーナ・シンム。
この国の王女である。
「あなたになんでも行動を制限される謂れはないはずよ!」
「謂れがない?ないわけ無いだろ?
俺はこの国の第一王子なんだからな。」
ゴダイ・シンム。シンム王国の第一王子で、ユキーナの兄でもある。
「ゴダイ…あんた、ホントにいいかげんに…」
ユキーナが右拳を繰り出そうと構えた後ろから更に怒声が飛ぶ。
「おやめなさい!ユキーナ!
あなたは未来の王を傷物にするつもり!?」
かなりの剣幕で迫ってくるのは母ウルティ。国王の正室である。
チッ…と舌打ちしてめんどくさいのがきたと言わんばかりの顔を下に向け、右拳をさげる。
「全く…ゴダイは未来の王として冷静で優しく立派に育ってますのに…どうしてあなたは、こうも品がないのかしら…。」
「母上、申し訳ありません。兄として妹の面倒を見るのも勤めの1つであるにも関わらず、このようにお見苦しいとこを…」
「いいのよ。ゴダイ…あなたのせいではないのだから。ユキーナ!あなたは仮にも王女なのです。王女としての自覚を少しは持ちなさい!」
心の中で私は悪くないのに…と口に出かけた言葉を唾と一緒に飲み込んだ。
「お母様。申し訳ございません。以後同じことがないよう、精進いたします…。」
全く…と言いながらゴダイと一緒にその場を離れて行く。ゴダイがこっちを見ながらニヤリと笑った。再び怒りが沸いたが、なんとか押し殺すように二人とは逆に向かって歩きはじめた。
「はぁ…。こんなにも差があるのかな…王子と王女って…。」
8歳の女の子には1つしか違わない兄が羨ましく見えてしまう。
そんな落ち込んだ少女が窓から外を見ると一人の少年が一人で遊んでいる。
先程まで落ち込んでたユキーナだったが一目散に走り出し、階段を下って中庭へ向かった。
「ミコトー!」
ユキーナは少年の名前を少々荒くなった呼吸のまま叫んだ。
「ユキーナ姉ちゃん!」
このミコト・シンムはシンム王国の第三王妃の子ども。ユキーナとは腹違いの弟ということになる。
「ミコト、聞いてよ!さっきまたゴダイのやつにね!!」
「お、落ち着いてよ、ユキーナ姉ちゃん。」
「もう、ほんと信じられない!ゴダイのやつがね、今日私になんて言ったと思う!?」
「いや、わからないよ…。また市場までケーキを買ってこいとかそんなこと?」
「違うわよ!!今日は私に『お前は将来他の王族か貴族に嫁ぐことになる。だから俺がこれからどこに出しても恥ずかしくない女にしてやるからな』なんて言ったのよ!!信じられなくない!?」
「それは…また凄いこと言われたね…お姉ちゃん…」
「凄いこととごろじゃ済まないわよ!!
なんであんな奴に色々教えてもらわなきゃならないのよ!死んでもゴメンだわ!!」
ミコトはアハハと笑いながら怒りをなだめようとしつつ、勢いに負けて重心が後ろに下がっていた。
ユキーナはそのミコトの様子に気づくとあ、ゴメンね…?と少し勢いよく喋りすぎたことを反省した。
近くにあったベンチに二人で腰をかけ少しテンションを落ち着かせてユキーナが話をし始める。
「ところでミコトはここで何してるの?」
「さっき魔法の授業が終わって、火の魔法の使い方を教えてもらったんだ!それを応用して少しこっそり遊んでたんだけ…」
話の途中だったがユキーナが肩を掴んでまた勢いよく喋りだした。
「あなた、もう魔法が使えるの!?」
う、うんとミコトは頷いた。
「あなた、それとんでもないことよ!?私も最近やっと魔力が成長してきて、水を出すことができるとこまできたのに…ゴダイだってまだ風の魔法一個しか使えないのよ!?でもゴダイはそれでも凄いって言われてるのよ!?あなたより2歳上のヒコマなんてまだ魔力の操作すらできないのに…」
「なんか魔法の先生も驚いてたよ。私の知る限り最年少での魔法だーってね。」
笑いながら言ってるけどあんたね…とユキーナは口から出そうな言葉を心にとどめた。
(魔法の先生のアリザエスは高名な魔法使いでちょっとやそっとじゃ驚かないのに…)
「ミコトは将来凄い魔法使いになりそうね。」
ユキーナが優しく微笑みながら語りかけるとミコトは下を向いて首を振った。
「僕は平凡でいいんだよ。」
ユキーナはそういうミコトの心を一瞬で、理解した。
「僕はこの国では多分幸せになれないから…」
ミコト…
「だからアリザエス先生にも魔法が出たことはお父様にも他の人にも言わないでって言ってるんだ。」
ユキーナは驚かない。ミコトは自分がてぎそこないの振りをして期待をされないようにして、将来外に出れるタイミングを探してることを聞いていた。そう。ミコトの母、ミユキから。
ユキーナはミコトを見つめ、ミユキの話した内容を思い出す。
続く。