二人の距離
復讐を誓ったサラでしたが、サラを取り巻く環境の変化と共に、サラ自身も成長しました。
深夜まで続いた会議が終わると、レイディンはサラが泊っている部屋の前に来た。
コンコン。
もう寝ているかもしれない、そう思いながらも扉をノックする。
中から返事があったのを確認して、レイディンは扉を開けた。
そこにはクロエがいたが、出かけて来る、と言い残して部屋を出て行った。
アロイスに会いに行ったのかもしれない。
「クロエったら、気を使っているみたい。
もうほとんど人間よ」
クスクスとサラが笑うから、レイディンも苦笑いする。
「まったくだ、聖獣殿に気を使わせている」
レイディンが差し出した手に、サラが手を添える。
「お疲れ様でした」
サラの言葉で、疲れが取れていくような気になる。
レイディンはその手を握りしめて引寄せた。勢いのまま抱きしめて、唇を合わせる。
くちゅ。
サラが何か言いそうになるのを、唇で塞いで、レイディンはサラを堪能する。
「レイ・・」
やっと解放されたサラが、レイにしがみ付いて睨みつけるが、頬は紅潮し、瞳は潤んで、レイディンにとっては可愛さしかない。
「どうした?」
レイディン自身でさえ、自分の言葉が甘くて驚いてしまう。
サラの髪をなで胸に抱きしめれば、サラがモソッと動いた。
「フィルベリー殿下のことは、ごめんなさい。
レイにとっての危険分子を排除しなかった」
フィルベリーが生きている限り、王位を狙う可能性がある。
それだけでなく、フィルベリーの子孫にも王位継承権が発生する。帝国や他の力のある誰かが担ぎ出すかもしれない。
「心配しなくていい。
フィルベリーが王位簒奪を試みたとて、それに負けない体制を作ってみせる。
それに、今のフィルベリーは何もできないだろう。
魔力は大きいが、それだけだ。市井で生きていく能力はないに等しい」
レイディンの言葉に、サラはアロイスを思い浮かべていた。
万全の準備をして、二人の友と一緒に冒険者になったアロイスでさえ、最初は大変だったと言ってた。
王子のフィルベリーと侯爵令嬢のシャロンでは、それどころではないだろうと容易に想像できる。
「それに、サラはシャロン嬢の気持ちが分かるからと言ったが、許したんだよ。
サラは自分を殺そうとした人間を許したんだ。
だから、フィルベリーは自分のしてきた事を受け止めて、更生して欲しいと思うよ」
「レイ・・」
サラだって許そうとしたわけではない、どうでもよくなったのだ。それを許すというのかもしれない。
「他人を許すことが出来るサラが、誇らしいよ」
きっとフィルベリーは、そんなサラの気持ちをないがしろにするだろう。その時は私が処断する、とレイディンは密かに思っている。
でも、もしかしたら、シャロン嬢がフィルベリーを変えるかもしれない
サラはそれを願ったのだろう。
「ねぇ、サラ。
戴冠式の日に、結婚式もしよう。
明日は、婚約の公示だ」
それまで陛下には生きていてもらおう、とレイディンは予定をたてる。
陛下が亡くなれば、喪に服さねばならない。その間、結婚式が遠のいてしまう。
弟の婚約者の時は、何も思わなかったが、今のサラは魅力的だ。
可愛らしくて美しい、誰もが振り返るだろう。
レイディンはサラを、早く自分のものにしてしまいたい。
「うーん、急すぎるわ。
ウェディングドレスは、女の子の憧れだもの。ちゃんと仕立てる時間が欲しいわ」
サラは断るつもりはないが、文句は言いたい。
「でも、女の子の憧れを我慢しても、レイと一緒にいたい」
「我慢させないよ。最高に急いで仕立てあげさせる。
マイレディ」
レイディンはサラを抱きしめて、頬を寄せた。
サラは両手をレイディンの首に回すと、触れるだけのキスをした。
「私の幸せにはレイが必要なの、私を離さないでね」
「私も、サラが必要だ」
コツンと、レイディンはサラの額に額をあてた。
今度のキスは長かった。
最後までお読みくださり、ありがとうございました。
終わりをどうしよう? とずいぶん悩みましたが、フィルベリーはすでに王子の権力を無くして制裁を受けています。
そして次の恋は、ハッピーエンドでした。
violet




