サラの後始末
王太子の求婚は、オーデア公爵の眼前でなされたということは、公爵の了承も取ってあるということだ。
常ならば、父親の了承を経て婚約が成り立つのだが、レイディンはサラ本人の意思を尊重した。
「殿下、婚約が解消されたと言われましたが、穏便に解消されたということでしょうか?」
サラは、王太子の権力で強行したのでは、と聞いている。
「シャロン様は、王太子妃の責務も価値も分かっておられた方です。王家の婚姻が簡単に覆せないことは、分かってます」
王子の婚約者同士、サラとシャロンは仲良くないが、疎遠でもない関係であった。
王妃を挟んで、何度もお茶をしていた。
サラの方が家格が上の公爵令嬢であったが、総領娘ということで、婿に入れる第2王子の婚約者になったのだ。
サラに兄か弟がいれば、王太子の婚約者になったであろう。
だからこそ、シャロンがサラより上の地位に就くのにこだわっていたのは、知っていた。
「長い時間を王太子の婚約者として束縛した上で、私の心変わりだ。イーストラ侯爵令嬢に非がないのだから、相応以上の慰謝料でもって解消した」
心変わりした自分に非がある、とレイディンは言う。
それが、フィルベリー第2王子と、レイディン王太子の違いだ。
「分かりました。殿下が誠意を持って婚約解消に臨まれたと理解しました。その上での求婚、嬉しく思います」
婚約者を殺して、婚約解消とオーデア公爵家の乗っ取りを画策したフィルベリー王子とは違う、サラは嬉しかった。
オーデア公爵は、背を伸ばし、王太子に躊躇することなく接する娘の変わりように驚いていた。
第2王子を婿に迎えても、全権を譲るのは娘であると、厳しい教育をしてきた。
内に秘めた強さはあっても、大人しい性格であった。
それが、この短期間で変わる程の経験をしてきたのだ。
何よりも、その自信はサラの美しさとなって輝いている。
聖獣の穴に落ちたと聞いて死んだと諦めた娘だったが、生きている事が奇跡なのだ。
生きていてくれるだけでいい。
娘の負担が無くなるように、公爵家を継がせる為、血筋から才能のある男子を養子に迎え入れた。
どうやらそれは、王太子殿下の策略でもあったらしい。
それでもいいと思う。他国にいる娘には会えないが、王太子妃になれば頻繁に会える。
妻も喜ぶだろう。
そして、娘の側にいるのが聖獣のクロエ様か。
オーデア公爵は、娘に家を継がせる為に受けた婚約で、その婚約者から娘が殺されそうになったとの後悔がある。
娘と王太子の様子から、想い合っているのは確かだろう。これに異を唱えるつもりはない。
「殿下が毒に倒れたと聞いて、どんなに心配したか!
でも、ご無事でよかった。
しかも、婚約も解消されているし、次は私の番ですね」
サラは握り拳で立ち上がる。そのただならぬ様子に、レイディンは止めようとしてが、不発に終わった。
「私を殺そうとした、フィルベリー殿下に報復をするために、生き残ろうとしたのです。
クロエ」
サラが呼びかけると、クロエはサラの手を握った。
そして、次の瞬間にはサラを抱いて、窓から飛び出していた。




