サラの登城
サラとクロエが用意を終えた頃に、ヨルイドが公爵邸に迎えに来た。
クロエは侍女に着付けられる初めての経験に抵抗していたが、サラに宥められるうちに、ドレスの美しさ、化粧の楽しさを理解した。
クロエの美しさはもちろんだが、ヨルイドは遠縁とはいえ久しぶりに見るサラが美しくなっていることに驚いていた。
「サラ嬢、クロエ嬢、お待たせしました。オーデア公爵より王宮に案内するように仰せつかっております」
ヨルイドがエスコートしようと手を出せば、ペチンとクロエが手を叩いた。
クロエがフフンと鼻で笑って、サラの手を取った。
「青二才、私が認めた者にしかサラを渡すわけなかろう」
サラはクロエの言葉を受けて、ヨルイドに向き合った。
「行方不明どころか死んだと思われた娘が現われて、ヨルイド様はどう思われました?」
クロエがサラをエスコートして乗った馬車に、ヨルイドが乗り込んで来た。
ガタガタ、と動き出した馬車に身を預けてヨルイドはクロエとサラを見た。
「公爵が俺を養子に迎えた理由は、優秀な血筋を探したからだと聞いている。
そして、すぐに王太子殿下から打診を受けた。王太子と王太子妃の補助としてだ。
その時はイーストラ侯爵令嬢の補助と思っていたが、殿下は令嬢との接見を持ちませんでした。
そして、殿下はサラ嬢を迎えに行くようにおっしゃられた。
それは、公爵が令嬢に婿を取るのではなく、嫁に行かすために血筋の男を養子にしたと納得した。
分からないのは、クロエ嬢、貴女だ。貴女は?」
「うーん、私も私が何者かは知らん。だが、まれに私やシンのような者が生まれる」
そのまま横を向くクロエはそれ以上を言うつもりはないみたいだ。
「ヨルイド様、クロエは私の対と考えてください。それからシンという者の事は追及されてもお答えできません。今のところ、害のある存在ではない、ということだけお答えします」
サラはゆっくりと微笑んだ。
すぐに王宮の正面玄関に着くと、ヨルイドの案内でサラとクロエは王宮を進んだ。
美貌のクロエと、行方不明の公爵令嬢の登城は目立った。
厳重警戒態勢の王太子の私室に、案内されると扉を開けて出迎えたのはラムゼルだった。
「サラ嬢、クロエ嬢、どうぞ」
「ラムゼル、堅苦しい。いまさらなんだ?」
ここはアロイスの館ではなくランデルウェア王国の王宮で、レイディンとラムゼルが転移してきた時のようには出来ないというのが、クロエにはわからない。
それを聞いて横にいるヨルイドは言葉に出さないが、驚いている。
このクロエという女性は何なのだろう?
部屋の中ではレイディン王太子とオーデア公爵が話し合っていたが、サラとクロエの姿を見ると、二人とも立ち上がった。
「殿下、お身体は大丈夫なのでしょうか?」
サラがレイディンに駆け寄り、貴族令嬢の挨拶をしようとするのを、レイディンが止める。
「サラ、ありがとう。私は大丈夫だ」
元々、服毒してない、とは言わない。対外的には毒に倒れたとしているからだ。
それどころか、サラの前に片膝をつき、サラの手を取った。
「私の婚約は解消された。
今、公爵に報告をして、許可を得た。
サラ・シルバー・オーデア公爵令嬢。
私、レイディン・ドロンテ・ランデルウェアと結婚していただけないだろうか?」
ラムゼルとオーデア公爵は分かっていたが、他に部屋にいる側近達は驚いて二人を見た。
ヨルイドは予感していたものの、こんなに急になるとは思ってもいなかった。
サラは、レイディンに微笑んだ。
「私、サラ・シルバー・オーデアは、レイディン・ドロンテ・ランデルウェア王太子殿下の求婚を受け入れます」
病気療養中の王太子の私室から歓声があがり、外にいて事情の分からない者達が慌てて扉を叩くことになった。




