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乱世乙女の反撃  作者: violet
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アロイスの慰労

王の病状が重いために、アロイスは王太子の立位式ではなく、王としての即位式をすることになった。

しかも国の体制の再建も緊急事案であり、それこそ仮眠を取るのがやっとな毎日が続いていた。


バン!

執務室の扉が力任せに開けられ、アロイスが飛び込んで来た。

「誰だ! 俺の部屋に女をおくってきたヤツは!

斬り殺してやる」

アロイスの手には抜身の剣が握られている。


「アロイス、止めろ」

セイダがアロイスを止めようとするも、アロイスの歩みは止まらない。

着替えに戻ったアロイスの部屋のベッドに、女性が用意されていたのだろう。

若く独身の王が出来るのだ、縁付きたい貴族達が身内の女性を送り込んできたのは初めてではない。


「俺は、クロエ以外娶らない。クロエに勘違いされるような事はしない」

アロイスが女性の名を出したことで、執務室にいた貴族達にざわめきが起こる。

『国を出ていた間に結婚していたとは聞いてないぞ』

『いや、恋人の一人や二人はいてもおかしくない』

ひそひそと話す声が聞こえてくる。

『場末の卑しい女だと困りますな』


ダン!

クロエを侮蔑する言葉を言った男の頬をかすめるように、アロイスの剣が飛んで来て、後ろの壁にささった。

「ひいいぃ!」

男は尻餅をつくように、その場に崩れ落ち、周りも震えあがった。

アロイスの腕は、コールハンの馬車を襲撃する時に皆に知らしめられ、王子時代より飛躍的に強くなったと認識されている。

アロイスがその気になれば、首でさえ一撃で落とせる。

「なんだと?もう一度言ってみろ?」

アロイスが剣の(さや)で肩を叩きながら、片足を椅子にかけた。



「殿下、そのクロエ嬢を寵妃にされればよろしいではないですか」

その場を治めるようにセントウィンダー公爵が進言するも、アロイスに睨まれる。

公爵は正妃はゆっくり相応しい姫君を探せばいい、今はアロイスの機嫌を取るべきだと判断したのだ。


「クロエを寵妃にだと?」

だが、アロイスは睨みつけるように公爵を見る。この状態で、公爵と()めるのはマズイと動いたのはセイダだ。

「セントウィンダー公爵」

セイダがアロイスの代わりに答える。

「アロイスの片思いなんです。

それにクロエは金にも権力にも媚びません。すでに何もかもお持ちの方です。

本人を見たら、多くの人間が平伏す程のお力をお持ちです。とても美しい」

クロエが普段隠している魔力が、稀に漏れでる時がある。クロエにとっては一部だろうけど、初めて感じた時は鳥肌が立つ程の魔力だった。

そしてクロエが従うサラは貴族令嬢だと言っていた。立ち居振る舞いからもそれを確認できる。

「公爵、もしアロイスがクロエを正妃として娶ることが出来れば、大きな後ろ盾が得られるでしょう」

セイダはクロエの魔力を言ったのだが、この言い方は、他国の王家か権力のある貴族の姫君と思うように誘導する言葉を使っている。


「アロイス、1時間休憩した方がいいだろう。

誰もが集中力をかいている。

公爵もそれでよろしいか?」

セイダがアロイスと公爵両方に確認をして、休憩を取ることになった。

その間に、貴族達も落ち着くだろうし、剣が頬をかすめた男の治療もできるだろう。


アロイスが執務室を出て行くのを、セイダがすぐに追いかける。

クロエに会いに行くのは、分かっている。




サラとクロエは、アロイスの部屋から音が聞こえたので、館の主であるアロイスが転移して戻ってきたのだとすぐに気が付いた。


「クロエー!」

大きな足音を立て、クロエの名前を呼びながら、サロンの扉を開けてアロイスが飛び込んで来た。


「久しぶりだな、アロイス。

元気か?」

クロエが声をかけると、アロイスは嬉しそうにクロエの横に来る。

「ずっとクロエに会えなくて、死にそうだった」

そのままクロエに(もた)れ掛かろうとするのを、クロエの手が止める。

「そうだ、茶を淹れれるようになった。飲ませてやろう」

クロエが立ちあがって、茶器の準備を始めた。


「クロエの淹れる茶か」

呟くアロイスの胸の辺りが温かくなり、疲れが飛んでいく。


すぐにセイダも来て、サラとクロエ、アロイスとセイダ、いつものメンバーで茶会が始まった。

「うまいですね、これ」

セイダが手にしてるのは、サラが焼いた菓子だ。

「そうだろ、サラは何をやらせても上手い」

クロエが上機嫌で菓子を手にすると、その手をアロイスがつかんだ、


「俺、王になる。だから、クロエ、結婚してくれ」

「無理」

アロイスとクロエのいつもの会話だ。

何度もプロポーズして、何度も断られている。


「うーん」

クロエが横目でアロイスを見た。

「お前がいない間は、つまらなかったぞ。

だから、そのうち情夫にしてやってもいいかな」


「クロエ!!」

アロイスが感動のあまり、クロエに抱きつくのを、サラとセイダは驚きで見ていた。


「そのうちな。だから王様ガンバレ」

ニヤリとクロエが言うと、アロイスが首がちぎれそうなぐらい強く頷く。


「アロイス、そろそろ時間です。

サラ、クロエ、美味しかったです、また来ます」

セイダは休憩は終わりだと、アロイスをクロエから引き離して連れて行った。


二人の姿が消えるのを確認して、サラはクロエに詰め寄った。

「情夫って意味分かっているの?」


「だって、アイツ、可愛いじゃないか」

そう言うクロエが、サラには可愛く見えた。




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