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乱世乙女の反撃  作者: violet
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ランデルウェアの幽霊

ガチャン、と王がレイディンが出て行った扉にカップを投げつけた。

「誰か、王太子を拘束せよ!」

王の大声が響き、衛兵が駆け付ける足音が響く。


チッ、レイディンは舌打ちをすると、軍司令部に向かう。

レイディンが王に強い態度ができる背景に、軍上層部を掌握していることがある。

そして、オーデア公爵と密かに連絡をとり執政部も押さえつつある。


王太子として大事に育てられ、次期王として執政を手伝ってきたレイディンは、優秀であり良き王になると誰もが思っていた。

何百年も聖獣に守られ、戦から遠ざかって良き王に成るのは当たり前のことだったのだ。

聖獣の存在がなくなり、サラと出会い、人々の生活を知ったレイディンは変わらなければならなかった。


何より、アロイスが国の為に王位を取る覚悟をし、成しえた今、レイディンは取り残され、負けたように思えるのだ。




サラはクロエに連れられて、ランデルウェア王宮に来ていた。

どこの国も王宮を守る為に、外部からの魔法を通過させない魔術が何重にもかけられている。

転移も決められた場所に、許可がある者しかできない。

ランデルウェア王宮もそうであった。

転移は出来なくとも、クロエが飛んでサラを連れて来るのは容易な事だ。


質素な白いドレスに身を包んだサラは、フィルベリー王子の部屋の外まで、クロエに運ばさせた。

1階ではなかったが、空から来て、開いた窓から中に入るのは、簡単なことだった。


クロエを王宮の屋根の上に待機させて、サラは飾り棚にある花瓶を手に取った。

ガチャン、力任せに投げつけた花瓶が壁に当たって、大きな音をたてて割れた。


続き部屋の扉が開いて、フィルベリーの侍従ポアロとフィルベリー自身が部屋に入って来る。

「誰だ!?」

ポアロがフィルベリーの前に立って守るように進む。


「あら、私を忘れたの?」

サラはゆっくり振り向くと微笑んだ。


「オーデア公爵令嬢!?」

ポアロが驚きの声をあげ、フィルベリーは言葉を失くしていた。


「お前は死んだはず。

どうして、ここにいる?」

王子の部屋には、簡単に入ってこれるはずないのだ。フィルベリーはサラの様子を探る。

自分の知っているサラとは、雰囲気が違う。

聖獣の穴に落ちて、生きていた人間はいない。二度と戻ってこないのだ。

サラは、間違いなく自分が穴に落とした。

大きな魔力はあったが、それを使えないサラが、穴から逃げだす事は出来ないはずだ。

第一、あれから数週間が経っている。


「久しぶりね、アマンダは元気かしら?

貴方達を、絶対に許さない」

悪意を込めて、ニヤリと笑うサラは、フィルベリーとポアロが知っているサラの表情ではない。

サラは、大人しく、真面目で清廉潔白な深窓の公爵令嬢だったのだから。


サラが(きびす)を返すと、白いドレスがひらりと舞う。サラが窓に身を乗り出したのを、フィルベリーとポアロが追って窓の外を見た時には誰もいなかった。下におちた形跡もない。

サラは待機していたクロエに抱かれて空に舞い上がっていて、フィルベリーもポアロも気が付くはずない。


「まさか、幽霊なのか」

ポツンと(つぶや)いたのはフィルベリーだ。

サラは生きてはいないのだから。


『貴方達を、絶対に許さない』

フィルベリーは、最後に笑ったサラを思い出し、気味悪さを感じていた。


「ここには、誰もいなかった。 いいな?」

フィルベリーがポアロに、確認するように言うと、ポアロは頷いた。


「殿下、風で花瓶が落ちたようです。

割れた破片を片付けますから、隣の部屋にお戻りください」

誰もいなかったのを強調するように、ポアロは風で落ちたと言う。


隣の部屋に戻って、フィルベリーは椅子に座る。


死んでまでも、鬱陶(うっとう)しい。

どこまでも、邪魔な女だ。

フー、と溜息をついて、フィルベリーは椅子の背に深く、身体を預けた。



それは、サラの策略だった。

簡単に殺しはしない。

精神面でジワジワと追い詰める、復讐の第一歩であった。


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