拝殿する人物
サラ達と昼食を食べた後、アロイス達はセントウィンダー公爵邸に集結した。
そこで、協力者達と対面したのだが、この4年でセントウィンダー公爵は協力者を増やしていた。
王太子のスペアとして育てられた双子の弟、国から逃げた王子。
蔑まれると思っていたアロイスだが、アロイスという旗印を求める声の強さは、王太子を見切り、蔑視や憎悪の延長にあるものだった。
「4年、国が傾いていく様は辛いものだったと思う。よくぞ、耐えてくれた。
俺は、皆の期待に応えられるか分からないが、誠意を尽くす。
自分達の手で、国を立て直す」
アロイスが宣誓をして、剣を振り上げると、大きな歓声があがる。
誰もが、己の命をかけていた。
翌日の早朝に、4頭立ての馬車が、王宮から神殿に向けて出立した。
闘病の長い王の快気祈願の為に、王太子コールハンが側妃と共に神殿で祈祷するのだ。
古の神殿は王都の外にある。
沿道には兵士が配備され、万全の体制が取られていた。
セントウィンダー公爵が襲撃場所と決めていたのは、王都を出て、最も警備を手厚くしている場所である。
そこは王都と神殿の中間にあたり、街道の周りには森が広がっていて賊が隠れやすい。
森の中も兵が巡回をしており、最重点警備地区である。
だが、その兵の中に、反王太子派の騎士が紛れ込んでいた。
ギルテン侯爵、スペーシッド伯爵がセントウィンダ―公爵に同調したことで、騎士の多くが反乱に参戦している。
兵の姿のアロイスとセイダも騎乗で街道を警備している。
王の乗った馬車が、緩いカーブでスピードを落とした瞬間、森の木から大量の弓が射られた。
「我に続け!」
アロイスが叫んだ。
アロイスの横を伴走するのはセイダである。
弓で御者は倒れ落ち、馬車は暴走を始めるが、負傷した馬が倒れると、絡まるように他の馬も倒れ馬車は横倒しになった。
その横では、王太子を守ろうとする兵と、王太子を排除しようとする反乱軍の戦闘だ。
ガン!
アロイスが馬車の扉を蹴り上げると、開いた扉から剣を手にしたコールハンが飛び出して来た。
「やはり、お前の声だったか、アロイス。
謀反である、征伐せよ!」
コールハンがあげた声に、街道に配置された警備兵が王太子を守ろうと集まって来る。
圧倒的多数の王太子を守る兵数であるが、反乱軍は子供の頃から剣の訓練をしてきた貴族の騎士達である為、農民上がりの兵士では止める事が出来ない。
セイダは倒れた馬車に飛び込むと、中からケガをした側妃を運びだしている。
カン、カン。
あちらこちらで剣のぶつかる音がする。
そして、コールハンとアロイスも剣をぶつける。
双子なのに、容姿も性格も似ていない。
「お前は、私のスペアなんだ! 身をわきまえろ!
お前は私に劣っているのだ」
コールハンの剣が大きく振り落とされる。
ガンッ!
コールハンの剣が、アロイスの剣で弾き飛ばされた。
「わきまえた結果、国が死にそうになっている」
カチャ、とアロイスがコールハンの首に剣を当てる。
「コールハン、お前の動きは見切れる、遅いんだよ。
魔獣の方が、もっと早い」
アロイスが剣に力を入れると、コールハンが震えあがる。
「悪かった、お前に王太子は譲る、私は隠居・・」
コールハンは、最後まで言えずに倒れた。
地面に血が広がっていく。
「我、アロイス・ゼン・ドウバイン。
王太子、討ち取ったなり!」
アロイスが勝ち名乗りをする。
「兵士に告ぐ。平伏しろ」
混乱する現場を仲間の騎士に任せて、アロイスは馬に飛び乗った。
すぐにセイダが追い、その後ろをセントウィンダー公爵とギルテン侯爵、スペーシッド伯爵が続く。
神殿の城下町は多くの参拝者がいたが、血まみれ姿で馬を駆けるアロイス達に悲鳴があがる。
アロイスは神殿の前で馬を降りると、正殿の階段をあがる。
飛び出して来た神官達も、ぐっしょりと血を被っているアロイス達に驚いて動けない。
「アロイス・ゼン・ドウバインである。
我が国は、他国を侵略するより、国内復興を優先すると報告にきた。
王太子コールハン・ゼン・ドウバインは亡くなった」
アロイスのそれだけで、神官は全てを察し、アロイスの前に跪く。
同じように、アロイスの後ろではついて来た、セイダとセントウィンダ―公爵、ギルテン侯爵、スペーシッド伯爵が跪いていた。




