復讐への歩み
不安だったんだ、と認めると、サラは冷静に考え出した。
「焦ってしまっていたの。
もう何日も過ぎているのに、何も出来ていなくって。
レイやアロイスに任せきりだし、クロエの力を頼りにして私は何もしてない、って何かしなくっちゃって。
私のことなのに、私は蚊帳の外の気がして」
レイディンが、そっとサラの髪の触れる。
「フィルベリーは、きっと長い月日をかけて準備したはずだ。
今も、サラが生きているとは知らないから、着々と策を進めているはずだ。
サラが生き残らなければそんな事を知るはずもなく、近い将来、私も殺されているだろう。
だから、この数日ぐらいで何も出来なくて当然なんだ。
一網打尽にする必要がある、決して取りこぼしをしてはいけない。
その為には時間が必要だ」
レイディンが、サラの髪に口づけを落とすから、サラは心臓が跳ね上がってしまう。
「それにサラは、私に魅力を見せつけたではないか。
何年も弟の婚約者としてあったのに、この数日の方がずっと濃い日々だ」
サラは目を細めた。
どんなに言われても、胸がドキドキしても、一歩は踏み出さない。
この人には婚約者がいる。
「婚約者がいる人から、そんな事を言われるのは、婚約者に裏切られた傷がえぐられるようです」
サラは、レイディンの婚約者が自分のようになるのはイヤだ。
王宮で会う事はあったが、深い付き合いでもない。王妃を挟んで、何度もお茶をした。表面的な会話しかしたことがない。
王太子の婚約者と、第2王子の婚約者、それだけの関係。
今しばらくは、身を隠しておいた方がいい、ということになり、アロイスの館に戻った。
館まで送ってきたレイディン達が帰ると、少し寂しい気がするのは、想いを自覚したせいだろうか。
アロイスとセイダはまだ戻ってなく、書置きを処分すれば、何事もなかったかのようだが、シンが増えている。
夜遅くに帰ってきたアロイス達は、シンを見て驚いた。
「増えている、誰だコイツは?」
幼児だと思って、アロイスがぞんざいに聞いてくる。
だが、シンが指を弾くと、アロイスは宙に浮き壁に叩きつけられる手前で止まった。
「悪かった、クロエの仲間だな。分かった!」
圧倒的な魔力に、アロイスはクロエと同じものを感じていた。
「ところで、首尾はどうだったの?」
サラが公爵との会見を聞いてくる。こんな時間になるまで帰ってこなかったので、失敗しているはずがない。
「兵の増強、兵器の投入」
アロイスの足が床に着くと、確認してあるき出した。
「反面、逆らう者は、投獄、処刑、恐怖政治だ」
ソファに座ると、アロイスは頭を抱えた。
「俺が国を出てから、4年しか経っていないんだぞ」
「ところで、コイツは誰だ?」
今度はシンが、先程のアロイスと同じ事を聞く。
「アロイス、この国の第2王子よ」
答えたのはサラだ。そして、これまでのことを説明する。
「ふーん、なるほどな」
クロエと違い人間の暮らしが長いシンは、理解が早い。
「俺はどうでもいいが、サラといたほうが面白そうだ」
それより、とシンは酒を要求した。
サラは疲れているので先に寝たが、クロエはシン達と遅くまで飲んだ。
翌朝、魔獣二人は平気だったが、人間のアロイスとセイダは、青い顔をしていた。
その様子を見ていると、悩むのがバカらしくなってくる。
すごく悩んでいるのに、長く生きるシンやクロエからすれば、些細な事かもしれない。
フィルベリー殿下に復讐する。
そのためには、シンもクロエも使えばいいんだわ。
それは、私にしか出来ない事だから。




