隠れている思い
「あ、」
サラはネックレスの熱を感じて、言葉が出てしまった。
「サラ、どうしてこんな所に?」
現れたのは、レイディンとラムゼル。
「今日は、早いですね。
いつもは深夜に来るのに」
レイディンの問には答えずに、サラは返事した。
こんな所と言われても、森の中という以外分からないからだ。
「君は?」
レイディンがシンを見た、途端にラムゼルがレイディンの前に立った。
「殿下!」
シンの魔力がふくらんだ。
「シン!」
サラが叫ぶと、シンは魔力を隠した。
「少し出しただけだ、あの男は?」
今度は、シンがレイディンの事を尋ねる。
「レイディン、ラムゼル、こやつは私の知り合いのシンだ」
クロエがシンを紹介すると、レイディンがシンに礼を取る。
「先ほど感じた魔力が少しというなら、聖獣クロエの知り合いは、やはり聖獣に等しい存在なのでしょう。
ランデルウェア王国王太子レイディンと申します。
これは、私の側近でラムゼルです。
クロエと同じく、お見知り頂ければ幸いです」
レイディンが挨拶し、クロエがお土産のスイーツの入った篭を広げると、態度は一瞬で軟化した。
「私はシンだ。 これは美味いな」
幼児の姿で、私という一人称は異様だが納得してしまう貫禄がある。
「ああ、この姿は誓約した時の誓約者の想いに影響を受けるんだ。
誓約者の亡くなった弟への想い入れと、私の本来の姿が反映されてコレになっている、慣れてくれ。
ここには、魔力の訓練で居たのだ」
お土産の焼き菓子が気に入ったらしく、シンは勢いよく食べている。
「お前、いいヤツだな」
お土産の威力は大きい。
少し落ち着いたのを確認して、レイディンがサラにもう一度聞く。
「どうして、こんな所に? 訓練だけではないようだが?」
サラはレイディンから少し離れて歩くと、レイディンはラムゼルに目配し、菓子を食べているクロエとシンが付いてこないようにする。
さほど離れることなく、サラは足を止めて、木にもたれかかった。
「ランデルウェア王国に戻ろうか、と思って」
レイディンはじっとサラが話すのを待っている。
「私、クロエと誓約して何でも出来そうな気がしてたの。
フィルベリー殿下に殺されかかって、その協力者も全部復讐してやるって。
だから、よその国の事まで首突っ込んじゃって、コールハン王太子ってアロイスの双子の兄だし、フィルベリー殿下はレイの弟だわ。
なんだか、どんどん目的から遠ざかっているような気がしたの」
「サラ」
レイディンが、サラの手を取る。
「さっき、シンが言ってたろう。シンの姿は誓約した時の誓約者の想いが強く出るって。
クロエの姿は、君とは反対のタイプだ。
顔かたちは違うが、君の従妹はクロエのように蠱惑的な身体なのでは?」
レイディンはサラの様子を伺いながら、話を続ける。
「ずっと追い詰められていたんだろう?
クロエと誓約した時、サラは殺されかかったフィルベリーより、従妹の方が憎かったんだろう?」
「自分でも、わからないの」
サラは視線を下に逸らす。
「私とフィルベリーは、いつかはぶつかる。
それにコールハン王太子が後ろ盾として、我が国に侵略してくるのだろう。
絡んでくるのがヘーミング帝国だ。フィルベリーは両国に情報を流している。
サラは気づいたんだろう?
コールハン王太子が実権を握ってから、ドウバイン王国は急激な軍拡で国は疲労している。
婚約者の浮気と裏切り、殺されかかって、逃げて、そこにたくさんの情報が入ってくれば不安になって当然だ」
サラが落とした視線の先に、レイディンは屈んでサラを見上げている。
「でも、君は王子妃教育と次期公爵教育を受けている。
どうすればいい?」
「フィルベリー殿下に復讐するだけでは、私を殺して利益を得る人間は逃げてしまう。
でも、そうしてる間にフィルベリー殿下が逃げたら、と不安になって」
だから、ランデルウェア王国に帰ろうとした。
「私がいる。
決して逃がさない。
今はまだサラが死んだことになっている」
レイディンは、優しく名前を呼んだ。
「サラ」
「いつも優しくしてくれても、レイには婚約者がいるもの。
浮気の相手になんて、なりたくない」
サラはレイに惹かれている気持ちに気が付いた。
浮気の相手になりたくない、なんて言うなんて。
「サラに信じてもらえる状態になるから」
レイディンもサラも、今はそれ以上は言えなかった。




