シンの事情
「美味い、ナニコレ!?」
シンはケーキにかぶりついていた。
魔獣って・・・
サラは考えても仕方ない、とケーキを追加注文した。
「誓約者が亡くなってから、ずっと森の中で寝ていたんだ。
そうしたら、懐かしい匂いがしてさ。
お前だったんだよ。クロエって名前だっけ。
たまに人間の街に来てたんだけど、店に入ったりしなかった。こんな美味いものが出来てたなんて、知らなかった」
ホクホク顔でケーキを食べているシンの横では、黙々とクロエが食べている。
カフェから出た時には、夕暮れになっていた。
書置きまでして出て来たのに、まだ王都に居るのだ。
「さぁ、行くか」
シンが手を挙げると、クロエがサラの身体を抱きしめて飛び上がった。
シンとクロエは空中を跳ねるように駆けあがり、王都から遠く離れた森の中に着いた。
クロエと同じように、空を駆けれるシンもクロエに劣らぬ魔力があるのだろう。
「微調整だっけ? 魔力の放出か? 魔術の軌道か?」
そう言いながら、シンはクロエと額を引っ付けあった。
しばらく動かないふたりであったか、どちらからともなく身体を離した。
「うん、わかった」
クロエは立ち上がると、人差し指を立てる。
目の前の木が1本だけ倒れた。
「こんなものだな」
「凄いわ、ちゃんとコントロールできてる」
サラが驚いて、倒れた木を見ていた。
「クロエと情報交換した。
フェイルベリーだっけ? 全部殺しちゃえばいいじゃないか」
シンがコントロールの仕方と、クロエが知っているサラの情報を交換したと言う。
サラは、後ろの木にもたれかかり下を向いた。
「シンやクロエの力では、簡単な事なのだろうけど、私がイヤなの。
罪のない人まで巻き込んでしまいそうで。」
ハン、と鼻で笑ってシンは言った。
「罪のない人間など、いるのか?」
サラは顔を上げて、真っ直ぐシンを見る。
「そうね、あの国全部、壊しちゃえば簡単なのにね。
シンもクロエも、出来そうだもの。
でも、殺したくない人も、あの国にいるのよ」
シンもクロエも、自分と自分以外という区分けなのだろう。
「シン、そろそろ私達、行くね」
話はここまで、とサラは国に戻るつもりでいるのだ。
「待てよ、私も行くから。
ケーキ美味かったし、サラが気に入った」
シンの姿は愛らしい幼児であるが、絆されてはいけない。クロエのように魔力を提供するなんて無理だ。
「シン、私は魔力を提供するのはクロエで精一杯なの」
「そうだ、美味いサラの魔力はやらん」
サラだけでなく、クロエも否定してくる。
「ああ、それはいらん。
誓約者からしか魔力提供は受けない。
今は、魔獣から直接摂取している」
そういうシンの誓約者は、亡くなっている。
誓約しても、人間の寿命は変わらないのだな、とサラは思った。
「ずっと寝ているのもヒマなんだ。
サラといると面白そうだ」
シンが面白そうなのが、サラには大きな負担だ。
クロエとシン、歴史を変えちゃいそうなぐらい強力な魔物が2体。
私、国だって取れるんじゃない?
クロエと誓約した時もそう思った、とサラは思い出した。
この聖獣という魔物達を断るのは無理だろう。
「じゃ、よろしくシン」
サラが手を出すと、シンがその手を取ったが、クロエに払われた。
「サラは、私のだから」




