クロエの旧友
サラが起き上がる気配に、クロエも目を覚ます。
「どうした?」
クロエの声には色気がないが、ベッドから出ようとする妻に、夫がベッドから声かけているようである。
ただお昼寝から起きただけである。
「考えたのだけど」
サラが前置きをして言う。
「私が殿下に復讐をしようとしたのに、なんか私は蚊帳の外になってない?
しかも、ドウバイン王国の国民が税にあえでいようが関係ないわよ。
昨日はちょっと熱が入っちゃったけど、それはアロイスがすればいいんだし、私はフィルベリー殿下を床に這いつくばらせて、許してくれ、悪かったって言わせて、同じ事をしてやりたいのよ。
なんだか、ドンドン遠回りになっている」
「そうだな、ランデルウェア王国に帰るか。転移はないが、私が飛んで連れて行く」
最初は人間の何も分からなかったクロエの理解力は凄い。
「だが、その前にカフェに行こう。この国のカフェにまだ行ってない」
「カフェに行って、そのまま帰ろう。書置きをすればいいわね。
資金も少なくなったから、質屋で宝飾を売ってからだわ」
サラが、便箋を出して書き始める。
『さよなら、国に帰ります』
まるで、家を出て行く妻の書置きである。
妖艶な美女と美少女が連れ立って歩いていれば、街の通りに出た時点で目立っていた。しかも護衛を連れていない。
街娘の恰好ではあるが、仕草は貴族のそれである。
いつもの事なのに学習していない二人である。
クン。
隠されている匂いにクロエが気づいた。
相手もクロエを見て近づいて来た。
「サラ、ちょっとこっち」
サラの手を握ってクロエは歩き出した。その後をついてくる。
「ねぇ、クロエ、あの人は?」
サラが後ろを振り返りつつクロエに聞く。
「アレは私の昔の知り合いだ。気にしなくていい、何もしない、無害だ」
クロエの知り合い? では、魔獣なのだろうか?
人の姿をしているということは、人間の誓約者がいるのかもしれない。
サラは、クロエに繋がれていない反対側の手を差し出した。
え、とそれは驚いた。
「迷子になってしまうわ」
サラが微笑むと、それはオズオズと手を繋いだ。
サラには、それが5〜6歳ぐらいの男の子に見えるのだ。
クロエとサラについてくるのに、早足で歩いているのが可愛かったのだ。
それに、クロエは無害と言ったではないか。
「貴方、お名前は?私はサラよ」
クロエのむかしの知り合いということは、見かけよりずっと年齢を重ねているのだろうが、幼児にしか見えない。
「お前は気に入った、私の名前は、シン。
コイツの成約者だな」
可愛い容姿で、口調は大人だ。
「ようよう、綺麗な姉ちゃん達」
突然、目の前に4人の男達が現れたが、男達だけが弾かれた。
クロエのように当たり一面吹き飛ばすのではなく、的確な魔力量と正確な軌道である。
「スゴイわ、シン。
クロエは微調整が苦手なの、教えてあげてくれない?」
「クロエとは、コイツのことか?」
機嫌が悪そうなクロエを指さしてシンは口角を上げた。
「まずは、カフェに行ってからだ」
クロエが言うと、サラとシンは見合わせて笑った。




