後戻りのできない道
「セントウィンダー公爵はアロイスを擁護していた家であります。
そして、コールハン殿下の増税による軍強化に不満が積もっており、ギルテン侯爵、スペーシッド伯爵などの名が出ています」
セイダはサラに答えるべく、有力貴族の名を挙げていく。
「ギルテン侯爵は軍属だろう!?
コールハンと亀裂したのか?」
アロイスがセイダに確認すると、横からクロエが口をはさむ。
「できた仲間だな。
お前の為に、密かに情報を集めていたのだな。無駄になる可能性が大きいのに。
おい、アロイス。
お前、まだ逃げるのか?」
「クロエ、アロイスは逃げたのではない。
王太子を決める時も、国を2分する恐れがあるから、身を引いたのだ。
王子の時も、冒険者になってからも、周りを気遣い実力を過信しない。
双子の弟という立場でなければ、セントウィンダ―公は堂々と推していたろう」
クロエの言葉に拳を握りしめているアロイスに代わりセイダが答える。
「ギルテン侯爵領は2年前の災害が復興していないのに、国に納める税率が上げられ、ギルテン侯爵は増やした兵の教育で王都に留め置かれて、領地の復興指揮にさえ行けない。
しかも農民を強制して兵にしているので、各領地から働き手を奪っている。
ギルテン侯爵は、志願兵以外はの領地に戻すべきと言っているのだ。
作物の生産量が毎年落ちている。そこに高い税だ」
「コールハンは、そこまでバカではないはずだ」
アロイスの肩にセイダが手をかけた。
「分かっているんだろう?
サラとクロエに目をつけ、サラを拐おうとした、そういう人間だ。
我々は、冒険者として各国を回ったが、コールハン殿下はこの国の中でしかモノを見ていない。
我々も、コールハン殿下も変わった」
セイダの言うことは正しい。
「クロエ」
しばらく考え込んでいたアロイスが、クロエの名を呼ぶ。
「恥ずかしい人間にならないと、クロエに誓うよ」
「そんなものいらない」
クロエは躊躇なく断る。
「私のせいなどに、するな」
「そうだな」
アロイスは笑った。
「セイダ、セントウィンダー公に会う。
手筈を整えてくれ」
アロイスは机から、便箋とペンを取り出して書き始める。
その様子を見て、サラとクロエは片付けを始めた。
サラを殺そうとしたフィルベリーだが、その背後にコールハン王太子がいるなら、その座から落としてやる。
領土拡大を狙ったか、英雄になりたかったかは知らない。
そんなものより、女の命は重要なのよ。
毎日来ていたレイディンは、その夜は来なかった。
アロイスも、レイディンに話にがあるようだったが、こちらから連絡するすべはない。
アロイスの手紙に対して、セントウィンダー公から直ぐに返事が来た。
アロイスが国に戻っていることは、驚きと喜びで受け入れられたようだ。
「サラ、クロエ、しばらく不自由をかける」
アロイスとセイダが、出かける準備をしている。
冒険者の時とは違い、騎士服を着ている。
サラとクロエは留守番らしい。
ボブン、クロエは自分のベッドに飛び乗った。
これから、昼寝をしようと言うのだ。
「寝るのは大好きだからな。
サラと会ってから、寝てないからな」
さすが聖獣様だ。
「クロエ、私も」
これから、どうなるかわからないから、二人で束の間の平穏を楽しむ。




