復讐というより、謀反?
どこまで話が大きくなっていくのか、サラは頭を抱えたくなっていた。
フィルベリーに復讐する、その気持ちはぶれていない。
公爵家の一人娘である私を殺すなんて、一人ではできない。きっと裏で糸を引く者がいるはずだと、私を殺すことを後押しした者全部に復讐する、と思った。
それは従妹のアマンダであり、公爵家の侍女であり、他にもいるなら逃すまいと思っていた。
クロエと誓約したことで、簡単にいくと思っていたのに、ドウバイン王家が絡んでくるなんて。
「やっぱり、ここはクロエに」
ドウバイン王家も、フィルベリーも簡単じゃないか。
アマンダはジワリと自分の手でやりたいかな。
「いいよぉ」
「俺が悪かった!」
クロエの返事に被せて、アロイスが謝る。
「何が悪かったか、わかってるの?」
両手を組んで足を組む、まるで裏社会のボスのようなサラである。
この間まで、フィルベリーの策に簡単に嵌まるような深窓の公爵令嬢だったはずなのに、怒涛のような日々はサラを変えていた。
「クレマチスだけじゃないでしょう? 今までもアロイスの為に身をなげうってくれた人はいないの?」
サラから目を逸らしたアロイスに、サラは大きな溜息をつく。
「ずっと年下の私に諭されるなんて、どうよ?
逃げてばかりで、恥ずかしくないの?」
「サラ、コールハン殿下はアロイスの家族なんだ」
セイダか庇うが、サラには火に油を注ぐようなものだ。
「その家族が、アロイスを助けたの!?
助けたのは、家族ではないクレマチスでしょ!
私だって、クレマチスが私を連れて行くのを抵抗してたって分かってるわよ!」
たとえクロエであっても、サラを盾に取られて簡単に反撃できない。
全部壊すのは簡単だが、サラだけ助けるのはクロエは苦手なのだから。
「アロイスがしないなら、私がこの国乗っ取る!」
税を上げて物価の高騰、兵の増員、この先にあるのは戦争だ。
「国の為にとか言ってるけど、逃げてるだけじゃない!」
「サラ、王宮に乗り込む時は、僕が案内しますよ。
ですが、どうかクレマチスの妹を助けてあげてください。
クレマチスが命をかけて守った妹です」
セイダにこう言われては、アロイスも覚悟するしかない。
「俺も、一緒に・・」
言葉の途中で、サラに殴られた。
「はー、冒険者って臆病者でもなれるの!?
国を盗りに行くって気合見せなさいよ。
初めて誰かを殴ったわ。光栄に思ってね」
「セイダ、この国で味方になるのはいる?」
サラは話に入れないクロエの手を引いて、セイダに説明を求める。
「元々、コールハン殿下は領土拡大とそれに付随する指針を示していたので、穏健派はアロイスを押していたのです。
それを、このバカは戦わずに王太子の座を譲ったのです。
表立ってはいませんが、今でも穏健派とは繋がりを取ってます」
セイダがしているのをアロイスも黙認しているのだろう、反論することはないようだ。
ツンツン、サラがクロエを突く。
「アロイス、最低、と言って」
「アロイス、最低」
クロエはサラに囁かれた通りには言うと、アロイスは目を見開き諦めたように口を開いた。
「いくらコールハンでも、こんなに急激に軍属化するとは思ってなかったんだ。
そのフィルベリー第2王子というのは、我が国が後押しするほどの人物なのだろうか?
それに、我が国がランデルウェア王国に攻め入れば、軍隊がランデルウェア王国に向かい手薄になったドウバイン王国は、隣国のへーミング帝国に攻め入るスキを与えてしまう。
コールハンは、十分に分かっているはずだ」
アロイスに聞かれて、サラは言葉に詰まった。
長い間、婚約者であったが、フィルベリーの事を分かってなかったのかもしれない。
アマンダの事は結婚までの遊びだと思おうとして、いろんな事に目をつぶっていたのではないか。
実際は、婚約者の私を殺して、アマンダと入れ替えようとする程だった。
王座を狙っているのも知らなかった。
公爵家に婿に入ると思っていた。
フィルベリー王子は公爵家も王家も、手に入れようとしていた。
「狡猾であることは、間違いないわ」
きっと、ずっと以前から私を殺す計画を練っていたんだ。
私は、そんなことにも気が付かないで、王子に呼ばれて喜んで王宮に行った、なんて滑稽なのだろう。
「狡猾か・・・
俺ならば、表向きはドウバイン王国の支援を受けて、裏ではドウバイン王国を餌にヘーミング帝国と取引するかもしれない」
俺でも分かる事だ、コールハンが気が付かないはずがない。
それとも勝算はあるのか?
アロイスはレイディンが来たら、フィルベリー王子とヘーミング帝国の関係も確認するように言おうと思っていた。




