新しい道
クレマチスはサラを殺そうとしたんじゃなく、命令されてどこかに連れて行こうとしてた。
逆らえない命令に、サラを守ろうとしたんじゃないか、そう思えてくる。
失敗する為に、自分の命をかけたんだ。
サラは布をかけられているクレマチスの遺体に近寄った。
「サラ、貴女が見る状況ではない」
クロエに頭を潰されたのだ、セイダが布がめくれないように押さえる。
「セイダ、クレマチスにお別れをさせて。
だって、クレマチスは私を狙っている者がいるって、身をもって教えてくれたのでしょ?」
あの時、クロエが止めるしかなかった。
そうでなければ、魔法陣で連れていかれてた。
だけど、クレマチスは自分が攻撃される時間を作ったんだ。
僅かな日数だったけど、北部への道中は楽しかった。
知らない事がいっぱいで、初めて料理を作った。
野菜の切り方を教えてくれたのは、クレマチスだ。
セイダが布を広げると、頭部が潰れ、顔は歪んでいた。
クロエの力でこの程度で済んでいるのは、手加減したのだろう。
胸にはサラのハンカチが添えられている。
ぅっ、と口元を押さえたが、深呼吸をして、サラはクレマチスの手を取った。
冷たくはないが、体温はすでにない。
「ありがとう、クレマチス」
セイダが床に突っ伏して、拳を叩きつけた。
「どうして、相談してくれなかった!」
アロイスは何も言わないで、拳を握りしめる手が振えている。
魔法陣が描かれた紙を取り出して、魔力を込めた。
一瞬にして全員が森の中に転移する。
そこは魔獣討伐でベースにしていた場所だった。
アロイスは短刀を出すと、クレマチスの血濡れの髪を一房切って、セイダと二人で分けた。
それから穴を掘って、クレマチスの遺体を埋めた。
レイディンとラムゼルはその様子を見ていたが、全てを終えるとおもむろに口を開いた。
「サラ」
なに、とサラが振り返る。
「フィルベリーのバックにいるのは、ドウバイン王国だ」
強いバックがいるから、第2王子が凶行したと思っていたが、国内貴族ではなく外国。
「なんですって!
クロエ、ドウバインを壊せる?」
クレマチスのこともあって、サラにとってドウバインは嫌いだ。
「うーん、2~3日かかるかなぁ」
のんびりとクロエが答えて、壊せるんだ、とサラは思う。
ガシッ!
アロイスがクロエの両腕を掴んで頭を下げる。
「クロエ、国にはたくさんの民がいる、兄は最低な事をしたが、民の生活を壊さないでくれ。
俺が国に戻る」
それに答えたのはレイディンである。
「覚悟したか? 生死不明の王子。
国に戻るのは、王太子を引き摺り落とす為か?」
「俺は逃げていた。
俺がいなくなっても、兄の不安は消えない。もっと向き合うべきだった」
話し合って分かる相手なら、逃げなかっただろうに。
「私も行くわ」
顔を上げたサラには、強い意志が現われていた。
フィルベリー殿下を支持する人間は、痛い目を見るがいいわ。
「クロエ、行くわよ」
「サラもクロエもダメだ。国を出てはいけない!」
聖獣が国を出るなんて許されない、とレイディンが声をあげても、サラは意志を曲げない。
「レイディン、サラには私がついてる。心配するな」
クロエは、ポンとレイディンの肩を小突く。
人間らしくなってきた。これが、長い時を地下の洞窟で過ごしていた聖獣か?
レイディンは、初めて会った時と比べていた。
「止めても無駄だな。
アロイス、セイダ、サラとクロエを頼む」
サラとクロエが、ドウバインに行くのはひるがえせない。




