フィルベリーの野望
アマンダに、元々期待などしてなかった。
堅苦しいサラよりは、可愛かったという程度だ。
フィルベリーは、執務室でアマンダの処理を考えていた。
執務と言っても、王太子のスペアである第2王子には、重要な案件は回ってこない。
自分の存在の不必要さを、認識させられる。
能力が劣っているのではない、生まれた順番が遅かったのだ。
しかも、聖獣の贄となる魔力の大きい人間を産み出すため、直系でない王家の血族を作らねばならない。
愛情もなく生まれた子供は僻地で育てられ、魔力が大きくなる10代に贄とされる。
ただそのためにだけ、たくさんの女をあてがわれる。
王家直系と公爵家直系だけの秘密である贄は、王家と公爵家が用意する。
稀に魔力の大きい平民を使う事もあるが、基本的に平民の魔力は小さい。
公爵家に婿入りするとなっても、公爵がサラに領地経営も私設軍の実権も譲渡するつもりなのは分かっている。それは都合が悪い。
僕は、王座に着くのだから。
その為に、オーデア公爵家は必要なのだ。
潤沢な資金、広大な領地。
その領地は王都のすぐ近くから、隣国ヘーミング帝国との国境まで広がっている。
オーデア公爵領を通れば、ヘーミング帝国軍は気づかれることなく王都のすぐ近くまで来れるのだ。
王都にヘーミング帝国軍が入り込んだ時、聖獣はどれほどの事ができるのだろうか。
贄を入れた時に巨大な魔力を感じるが、姿も見た事のない聖獣。
ずっと寝ていて、贄を摂取する時だけ起きると伝えられている。
聖獣のおかげで魔獣が王都に入り込むことはないが、軍にもそうであろうか。
父と兄を亡き者にするには、帝国軍の力が必要だ。
フィルベリーは、自分の力を選んだ。
第2王子という王太子のスペアから、公爵家の権力のない婿になるつもりなどない。
「オーデア公爵家の養子になる男は邪魔だな。
アマンダ以外の養子候補を消してしまえばいい」
フィルベリーは呟くと、手紙を書き護符と共に魔術で送り、書類の処理を始めた。
それほどの時間が経ったろうか、机の側の魔法陣が光り始めた。
「客が来る、皆は外してくれ」
フィルベリーは執務室にいた事務官や侍従達を部屋から下げた。
誰もいなくなったのを確認して、魔法陣に自分の魔力を注ぐ。
王宮は強固な魔術壁で守られており、転移は護符や王家の許可が必要になっていた。
「お呼びですか」
現われたのは黒髪の男で、目の周りのマスクで顔を隠している。
その男は闇組織の者で、フィルベリーの部下でもある。
「ああ、少し消してもらいたい者がいる」
フィルベリー自身が、闇組織を牛耳っているのだった。
ヨルイド・ルトラ・ビョルンセンの資料を渡すと、男は何も言わず受け取った。
「ヘーミング帝国におくっていた者が戻って来てます」
「そうか、近いうちに行く」
フィルベリーが答えると、男は転移して姿を消した。
ベルを手に取り鳴らすと、部屋の外に出ていた者達が戻って来る。
ここの者達はフィルベリーの腹心の部下達だが、それでも全てを信じているわけではない。
「殿下、そろそろ晩餐のお時間です」
侍従が告げれば、フィルベリーは着替えの為に執務室を出て行った。
今しばらくは従順な振りをしておかねばならない。
婚約者を事故で亡くした傷心の王子として、家族との晩餐に向かうのだ。




