アマンダのあせり
アマンダ・ミモリア子爵令嬢、母はオーデア公爵の実の妹になる。
従妹のサラとは年も同い年だったこともあり、遊び相手として公爵邸によく連れていかれた。
公爵も公爵夫人もアマンダを可愛がってくれた。
だから、サラがいなくなれば、自分が公爵家を継ぐと思っていた。
それなのに、公爵家に出入り禁止を申し渡された。
サラが王宮の地下の穴に落ちて2週間が経つのに、葬式はまだ行われていない。
フィルベリー殿下はサラは死んだと言い切ったのに、オーデア公爵家では行方不明扱い。
これでは、養女に入ることができない。
「登城するから用意をして」
フィルベリー殿下なら、何か知っているだろう。
侍女に命じて、黄色のドレスを用意させる。
その間に手紙を書いて、魔術でフィルベリー殿下に飛ばした。
すぐに返事が来て、東の庭園で会うことになった。
王宮の東の庭園の四阿で待っていれば、フィルベリーはしばらくして姿を現した。
「僕からも話があったんだ、丁度良かった」
フィルベリーの表情は、いつもの穏やかな顔というより、怒っているにちかい。
「お前は、公爵家に養女になるはずだよな?」
あくまでも優雅に、フィルベリーは四阿に用意されている椅子に座る。
「ええ、子供の頃から、公爵にも夫人にも気に入られて、ドレスや装飾品を貰う程だったもの」
他の従兄弟達には、誕生日のプレゼントだけだった。
サラがいなくなれば、オーデア公爵家の新たな後継者が必要になる。
「ヨルイド・ルトラ・ビョルンセン」
それは、オーデア公爵の遠縁から引き取られた養子である弟の次男の名前だ。
「オーデア公爵家の養子として申請された」
え、とアマンダは息をのむ。
従兄弟といっても、ヨルイドには年に一回会うか会わないかぐらいにしか、接点はない。
「その申請は受理されたの?」
「問題がなければ、速やかに受理されるだろう」
フィルベリーにしても、オーデア公爵が他人の手に渡るのは避けたい。
「私が、ヨルイドを殺すわ」
アマンダにとって、ヨルイドは公爵家を奪う泥棒猫だ。
二日後、アマンダは王都にあるホテルの1室にいた。
「こんな所に、僕を呼び出して何事かな?」
アマンダの向かいには、ヨルイドが座っていた。
ヨルイドは、子供の頃、サラの補助としての教育を受けていた。
第2王子との婚約がなければ、サラの夫候補の筆頭であった。
従兄ではあるが血は薄く、優秀であることで結婚するに問題はなかった。
サラが行方不明になった時に、養子の話が出たのも当然であった。
サラの情報が王太子から出た事で、オーデア公爵はサラは戻ってきても公爵家を継がない、可能性を考えたのだ。
そして、娘サラを裏切っていた第2王子とアマンダの関係も許すつもりはない。
サラが第2王子の周囲を調べた結果は、サラだけでなく、オーデア公爵も受けている。
「オーデア公爵家をなめない事だな」
養子になるに当たり、ヨルイドにも知らされている。
サラの行方不明の最も怪しい点は、それを報告しているのが、アマンダと浮気しているフィルベリー王子ということだ。
「そんなつもりはないわ、ずっとヨルイドが好きだったの、それで呼び出したの」
アマンダは、そっとヨルイドの手に手を重ねる。
パシン、それはヨルイドに払いのけられた。
「そんな事なら、失礼するよ」
王子のお手つきなどいらない、もう少しで口から出そうな言葉を飲み込んで、ヨルイドは席を立った。
「ヨルイド!」
アマンダは自分のドレスを乱暴にはだけると、叫び声を上げた。
「きゃあ、誰か!」
まるで、ヨルイドに狼藉されたかのように、アマンダが叫ぶ。
アマンダはヨルイドを誘惑して、気が緩んだところで、殺すつもりだったが、それが出来ないなら脅す事にした。
その声を無視して、ヨルイドは部屋のドアを開けた。
「僕がそんな手に引っかかると思ったか、阿婆擦れめが」
振り向きもせずに、言葉を吐き捨てるとヨルイドは部屋を出て行った。




