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乱世乙女の反撃  作者: violet
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湖畔での訓練

クロエは、宿の部屋の窓から身体を乗り出した。

腕にはサラを抱いている。

部屋は2階で、窓の下に人がいないのを確かめ、町の外を見つめる。

「絶対に落とさないから、つかまっていて」

サラが頷くと、クロエは窓枠に足をかけると外に飛び出した。


クロエは落ちることなく、誰にも気づかれずに空高く飛び上がった。

サラは驚きで、クロエにしがみつく腕に力をこめる。

クロエが空中を走るように駆けると、景色がグングン変わっていく。すごいスピードで空気が風を切るようだ。


スー、と静かにクロエが降下すると、そこは森に囲まれた湖のほとりであった。

水面が光に輝き、空気が澄み、静寂が辺りを包んでいる。

「綺麗」

公爵令嬢で、第2王子の婚約者として育ったサラには、初めての静けさである。

どこに行くのも護衛や侍女が付いていた。


「この辺りは魔獣が多いから、人間は来ないだろう。

私がいるから、今は魔獣は近くにいない、心配しなくていい」

クロエはサラの手を引いて、湖のほとりを歩く。

手ごろな大きさの岩を見つけると、そこにサラを座らせた。


「サラの魔力は特異なのだ。素晴らしく美味しい。

魔力量も多いのに、サラは大きな魔法は使えないだろう?それがおかしい」

クロエが腕を振り上げると、湖の水が大きな渦になり、空中に巻きあがる。

クロエの腕の動きに合わせて、自由自在に動き、湖の上で霧散した。

光の粒となって湖に落ちる水滴は、虹を作り出し、あまりの美しさに(まばた)きさえ忘れそうだ。


「通常とは違う方法で、サラは魔力を込めることが出来るのだろう。

それが何か、試してみよう」

クロエがサラと出会った時、サラの精神は極限状態だった。

婚約者が殺す目的で、サラを穴に落としたのだから。

だが、サラは生きたいという強い意志があった。


クロエとサラの誓約、そこにサラの魔力があったはずだ。

耽美なるサラの魔力。


「私の言う通りに復唱して。

私に従いなさい」

サラは言われた通りに何度も言う。

「私に従いなさい、私に従いなさい」


ビュン。

サラの顔をかすめそうな勢いで、石が(はじ)け飛ぶ。

あまりの速さに、サラは驚くばかりで動けない。


「次は当たるかも」

手を挙げたクロエの後ろに、小石がジャラジャラと宙に浮かんだ。


ふらりと立ちあがり、サラは逃げ出した。

クロエはサラに当たる直前で石を止めるつもりでいるが、サラはそんなことは知らない。

石に当たる恐怖で、クロエから離れようと走る。

クロエに言われた言葉など、口にする余裕はない。


頬をかすめた石が、バンッと音を立てて地面に叩きつけられる。

サラの頬は切れてはいないが、赤い線のように腫れている。

「いや、止めて」

サラの震える声が、静かな湖畔に響く。


サラの足元で、早いスピードの勢いのまま石が跳ねる。

「きゃあ」

ドサッ、サラが転んでも間断なく石が飛んでくる。

転がりながら避けて、立ち上がるとサラはクロエを睨んだ。

「クロエ! 止めなさい」

叫んでも、飛んでくる石は止まらない。


「生活魔力しか出来なくって、フィルベリー王子に復讐など、よく言えたな」

(あざけ)るようにクロエが言うと、サラの方がピクンと揺れる。


「絶対に思い知らせてやる。

アマンダにもよ!」

絶対に生き延びて、思い知らせてやる。


大きめの石が、サラの顔めがけて、弾け飛んで来た。

なんとか避けて、クロエを見つめる。

今まで運動などしない公爵令嬢は、すでに力尽きている。

それでも、負けたくない。

クロエにそれ見た事か、と思われたくない。

「クロエ、止めなさい!」


宙に浮かんでいた石が、バラバラと地面に力なく落ちた。


「サラ!」

駆けこんで来たクロエは、サラが転んだ時に出来た傷を()める。

ぺろぺろ、サラの腕を舐めて満足したクロエが顔を離した。


「声だ」

クロエは、サラの手を取った。

「瞳か、手か、どこに魔力出すか、想像もしなかった」


「まだまだ不安定で微弱だが、声に魔力がのっている」

指先でも、瞳でもなかった。

クロエの言葉に、サラはその場に座り込んだ。


「私も、魔力が使えるの?」

攻撃魔法もバリアも弱いのしか出来なかった。

サラは、公爵令嬢という高位でありながら、弱い魔法しか出来ないことを恥じていた。


「そうだ、さっき止めるという指示が響いた。

あれが魔力だ、言の葉だ。

まだまだ訓練が必要だが、それが出来るのはサラだけだ」

クロエは、腰に両手を挙げて立っている。

普通に話すのではだめなのだ。

緊迫した状態が必要なのかもしれない。

「訓練を始めよう」


さっきまで逃げ惑っていたサラが、クロエに近づく。

「分かりました。クロエよろしく」

自分の力で、フィルベリー殿下に復讐したい。

サラの瞳は、強い意志に輝いていた。



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