破局へ至る道
レイディン・ドーテ・ランデルウェア、ランデルウェア王国の王太子である。
婚約者は、シャロン・ララ・イーストラ侯爵令嬢。
「待たせたね」
レイディンは月に一回の婚約者との茶会も義理で会うだけで、その日も遅れて行った。
王宮のサロンには、すでに婚約者のシャロンがソファに座っていた。
「レイ様」
シャロンが嬉しそうに、レイディンを迎える為に立ちあがる。
「そろそろ結婚の時期を決めねばならない。
改めて言うまでもないが、お互い政略結婚というのは理解しているはずだ。王太子と妃として愛情はなくとも、信頼関係を築いていければいいと思っている。
嫡子を成した後なら、愛人を作ればいい。
私は愛妾を作る予定だ。側妃は他国との情勢を鑑みて受け入れるかもしれない。
そうなれば、後継は母親が侯爵家より、他国の王家を優先することになる。
今更、説明する必要もないだろうが、幸せにはしてやれないと思う。王太子妃とはそういう地位だと覚悟して欲しい」
レイディンは自分で言いながら、最低だなと思っていた。
実際に、サラに好意を持っている以上、シャロンに愛情を与える事はないだろう。
後ろに立つラムゼルは何も言わず、控えている。
嬉しそうに立ちあがったシャロンだったが、顔色を無くし、力なくソファに座った。
「私は、子供の時からの婚約で、レイ様と愛情を育てていると思ってました」
泣きそうになるのを、シャロンが我慢しているのが分かる。
「シャロン嬢は、私の好みに育たなかったようだ。
こればかりはどうしようもない。結婚するのは決まっているが、期待しないでくれ。
今までも、敬意をもって接してきたつもりだ。変わることはないだろう」
レイディンの言葉に、シャロンの後ろに立つ護衛の若い騎士がきつい表情をする。
「ラムゼル、シャロン嬢はお茶は無理そうだ。馬車停めまで送ってくれ」
レイディンはお茶に手も付けずに、茶会を終わらそうとする。
「レイ様、私変わりますから。レイ様の好みに変わります。髪型ですか?ドレスですか?」
シャロンの声は、悲壮感が漂っている。
「シャロン嬢、私も妃になる人に好意を持てたらいいと、婚約してから10年以上、努力はしたんだ。
貴女が王太子妃としての教育を終えたことに敬意を持っている、それだけだ。
どうか、私が愛する人を側に置くことを恨まないで欲しい」
シャロンは言葉もなく、俯きながら立ち上がった。
ラムゼルよりも早く、シャロンの護衛がエスコートの手を差し出した。
シャロンが躊躇う事なく手を取ったことから、信頼している人間なのだろう。
「殿下、失礼します」
シャロンの代わりに、護衛が礼をしてサロンから出ていく。
「最低ですね」
ラムゼルが、レイディンを横目で見る。
「まぁな。
愛妾以外は、本当のことだろ」
ふー、と息をついてレイディンは襟元を緩める。
「これでも、王太子妃を諦めないだろうな。家からの指示もあるだろう。そういう女だ」
レイディンがシャロンに好意を持てない、と言ったのは本気なのだとラムゼルも知っている。
婚約しているのに最低限の夜会にエスコートするだけ、毎月の茶会も仕事優先で遅刻、キャンセルは当たり前だった。
「あいつが清楚なのは見かけだけだ、愛妾など排除に動くぞ。
あれは泣いているように見えるだろ?上手いよな。
今頃、馬車の中であの護衛に慰めてもらっているだろう」
「殿下、手の者を忍ばせてあります。」
ラムゼルが紅茶を淹れ直して、レイディンの前に置く。
「王妃として国を護るには、我欲が強すぎる。
絶対にアイツには指一本触らない。
そんなことしてみろ、誰の子か分からないのを押し付けられそうだ」
カップを持ち、レイディンは口に運ぶ。
「シャロン嬢と違い、それに媚薬は入れてませんから」
平然とラムゼルが言う。
「あちらから、婚約解消を申し出てくれるといいのだが、今のでも無理そうだな。
こちらの証拠を出せば、ごねるだろう。
さぁ、戻るか」
カップを置いたレイディンは立ち上がり、ラムゼルが付き従う。




