王太子(婚約者あり)VS冒険者(出自不明)
ユラリ、空気が揺らいで、そこに現れたのは王太子レイディンとラムゼル。
王太子の顔を知らないアロイス達は剣を手に身構え、臨戦態勢に入る。
「夜分に失礼するよ、サラは寝ているのか?」
レイディンが手を前に出し、警戒をほぐすように持って来たフルーツの篭を差し出す。
「レイとラムゼルだ」
クロエがサラの手を離して起き上がると、サラも目を覚ましたようだ。
「悪いね、この時間しか自由になれなくってね。
甘味が不足しているだろう、持って来た」
レイディンは、サラの情報を調べて土産を用意していたのだ。
サラよりクロエが反応して、籠を手に取った。
クロエは王都で食べたスィーツが気に入っていて、篭の中の果物と焼き菓子を食べ始めた。
クロエは魔力が糧だが、味覚を楽しむらしい。
「サラ」
クロエが、サラに果物を手渡す。
サラはレイディンとアロイスを見て、ナイフもフォークもないと分かると、一口かじりついた。
瑞々しい果汁が口に広がり、頬が緩む。
「美味しい」
サラの幸せそうな顔に、レイディンは見惚れてしまった。
あんな顔もするのだな。
可愛い。
「お前は誰だ?」
アロイスの声に、レイディンは我に返り方眉をあげる。
気にくわない。
お互いが思っていた。
その雰囲気を、ラムゼルもゼイダもクレマチスも感じていたが、サラとクロエは気にしてなかった。
「クロエ、喉が渇いちゃった。お湯沸かそう」
サラが鍋を手にして、火にかけようとする。
「ダメだ! 魔法は使うな!」
叫んだのはゼイダかクレマチスか、だが、遅かった。
ザァァ!!
水が空から降ってきて、全員がビショ濡れになった。
「クロエ!」
アロイスはクロエが持っている籠を取り上げ、横に置く。
「鍋に水をいれようといしたのは、分かっている。
だが、魔力が強すぎて微調整が出来てない」
アロイスが風を起こして、クロエの濡れた服を乾かす。
すぐ横では、レイディンがサラの服を乾かしていた。
「レイ、毛布も濡れた」
「わかった」
セイダとクレマチスが消えてしまった火を起こすのを、ラムゼルも手伝っている。
クロエがいる限り、獣が近寄ってくることはないだろうが、夜は冷える、火が必要だ。
火を点け、湯を沸かすと、ゼイダが茶を淹れて、全員に配る。
「改めて自己紹介しよう、レイだ。
サラが首にしているネックレスは、私の魔力を込めてある。
それを目標にして、ここに転移してきた。
私とサラは、そういう関係だ」
ハッキリと言わず、それとなく匂わせてレイは相手に想像させる。
「違うから、赤の他人です」
この人は、クロエの誓約者となった私が、国の為に必要なだけなんです。
「この人、婚約者がいるんです。まるで私に心変わりしたように思われるじゃない」
サラはグイッ、とレイディンを押しやった。
「私にかまわないでくれませんこと?」
「アハハ、婚約者がいるのに、サラのとこに通っているか。
最低やろうだな」
アロイスが、レイをバカにしたように笑う。
「俺はクロエだけだからな」
ぎゅうぅ、とクロエを抱きしめようとして、吹き飛ばされた。
「勝手に触るな!」
ズササァッ、アロイスの身体が林に突っ込んでいく。
サラもクロエも、言い寄る男を打ちのめした。




