北部への道
早朝に王都を立って北部に向かったが、覚悟はしていた通り、朝から騒動だった。
公爵令嬢のサラ、魔獣のクロエ。
荷造りなどしたことがない。買ったドレスや生活用品を全てアイテムボックスに詰め込もうとして、ぐちゃぐちゃになっていて、アロイスが迎えに来た時は、まだ何もできていない状態だった。
男のアロイスも女性の衣装のことは分からず、衣類と生活用品を別けて入れるので精一杯だった。
馬に乗ろうとしたら、馬がクロエを恐れて動かなくなり、サラは令嬢としての乗馬の経験しかないので、すぐに音を上げた。
「お尻が痛いですわ。
こんなに長い時間乗ったことがないんですもの」
「じゃ、ここらで昼休憩しよう」
山道の途中で、アロイスが昼食にしよう、と言って、居酒屋のベッキーが持たせてくれた弁当を取り出した。
「サラ、クロエ、落ちている枯葉を集めて、火を点けてくれ」
ボンッ!!
「うわぁああ!」
セイダが火が点いた身体を魔法で消火している。
「うーん、手加減しているんだけどな。火が噴き出た」
クロエは自分の手を見ている。
サラは落ち葉を拾っているが、1枚1枚拾っているので、焚火が出来る程になるには時間がかかりそうだ。
「サラ、押し花をする為に拾ってるんじゃない。
焚火にしたいんだ」
クレマチスがこうするんだ、と手本を見せて、ガバガバッと両手で落ち葉を集める。
食事の後は、また馬に乗る。
「なぁ、アロイス」
セイダが馬を寄せて来る。
「サラ、お尻が痛いだろうに頑張っているじゃないか。
世間ズレしているけど、根性だけはあるよね。
反対に、クロエは恐くないか?
魔力もそうだけど、考えがわからない」
「神秘的だよな」
アロイスがクロエを誉めるのを、セイダは今は言っても仕方ないかと、それ以上は言わなかった。
食用に狩ってきた血だらけの魔物の解体を見て、サラが悲鳴を上げた。
それでも捌いている様子を、ビクビクしながら見ていた。
足手まといのサラとクロエであるが、覚えようとする姿が、3人には好ましかった。
夜は山の中で野宿である。
「私に手を出そうとしたら、クロエが怖いからね」
サラが毛布に包まって、男3人に脅しをかける。
「そんな事するはずないだろう」
「もうちょっと、信頼して欲しいな」
「俺たちは紳士だ」
三人三様の否定の言葉をする。
サラも、冒険者とはいえ、この3人は無法者ではないと思っているから、同行しているのだ。
強行スケジュールで疲れているはずなのに、目が覚めて寝れない。
「クロエ」
「どうしました?」
クロエは毛布から半身を起こして、サラを覗き込む。
その様子を、焚火に照らされた3人が見ている。
「今日だけ、手を繫いで寝ていい?」
サラがクロエの手に触れる。
ブーッ、焚火の向こうで、クレマチスが噴き出していて、アロイスもセイダも笑いをこらえている。
「もう、もう、今日だけだから」
サラがアロイス達を睨むが、威厳はない。
「今日だけでなくって、いいですよ」
クロエが毛布に横になって、毛布から出した手をサラと繋ぐ。
「俺達が交代で番をするから、安心して寝ろ」
貴族令嬢が、こんな所で不安になるのは当然だと、アロイス達も分かっている。
サラは順応している方だ。
寝ようとして不安になったのだろう。
サラは、眠りに落ちていった。




