王太子の側近ラムゼル
「殿下、ここは?」
ラムゼルが、周りを見渡してサラに目を止めた。
「オーデア公爵令嬢、行方不明では!?」
どうやら、ラムゼルは事情を知らずに連れて来られたらしい。
そしてサラは、聖獣の存在を隠している王家は、サラが行方不明としていると知った。
第2王子の婚約者であったサラは、王太子の側近とも会ったことがある。
「サラ嬢、ずいぶん可愛らしい姿だな」
レイディンが、サラとクロエの様子を見て誉めようとしてクスッと笑う。
サラとクロエは、昼間に宝飾品を売ったお金で街着の衣類や生活用品を買った。
これで着たままのドレスを着替えられると喜んだが、問題があった。
公爵令嬢のサラは、一人でドレスを着ることなどなかったのだ。
平民の街着を買ったので、着るのは何とかなったが、髪を結い、セットするというのが出来なかった。
クロエはもっと大変だった。髪を梳くということが出来ないのだ。
二人で四苦八苦して、サラはポニーテール、クロエは束ねるだけ、という髪型になった。
サラは可愛い顔立ちなので、似合い過ぎて歳より幼く見える。
「ありがとうございます、殿下」
昼間、アロイス達にさんざん言われたので、サラは抵抗するのを止めた。
「ガーヴィン侯子もどうぞ、こちらに」
王太子の後ろに控えているラムゼルにも声をかける。
レイディンが椅子に座り、その後ろにラムゼルが立つ。
向かいのベッドに、サラとクロエが座って、宿の部屋がいっぱいになった。
「サラ嬢、私一人では無理があるので、ラムゼルを連れて来た」
ファルベリーの背後関係を探るには、王太子は職務があるので限度がある。それは、サラにだって分かっている。
「ラムゼル、見ての通り、行方不明のサラ・オーデア公爵令嬢だ。
行方不明とはいっても、実際は事故に見せかけて殺されかけ、逃げているのだ。犯人には死んだと思わせる為に、ここに潜伏している」
公爵令嬢が行方不明というだけでも大事件なのに、それは建前で殺されかけただって?
ラムゼルが、言葉を出す前にレイディンが続ける。
「サラ嬢の隣にいるのがクロエ殿だ。
私が戴冠した時にはラムゼルも知ることになっていた、我が国を建国の時から守っている聖獣殿だ」
「守ってやったつもりはないが、我が寝るのを邪魔する物がないようにしていただけだ」
一瞬、クロエが全身に魔力を満たすと、ラムゼルは目を細めた。
「確かに、これほどの魔力は初めてです。
それに、これでも魔力の一部なのでしょう」
ラムゼルは前に出ると、クロエに膝をつく。
「そして、何よりもお美しい。お会いでき光栄であります」
「我・・、私はサラと誓約した。何よりサラを守れ」
クロエは、サラに言われたのを思い出して、私と言い直す。
ラムゼルとサラを横目に見て、レイディンが組んだ足に片肘をつく。
「サラ嬢を殺そうとしたのは、フィルベリーだ。
オーデア公爵家以上のものを狙っている、と考えた方がいいということだ」
第2王子フィルベリーの名前が出たことで、ラムゼルも気が付いた。
狙いは、この国の王位。
「どんな事をしてもサラ嬢をお守りいたしましょう」
固い決意で、ラムゼルが顔をあげる。
それに反して、サラが楽しそうな声をだす。
「大丈夫です。クロエがいれば誰よりも安全よ。
それに、明日から地方に行くし」
「なんだって!」
「どうして!?」
レイディンとラムゼルの声が重なる。
「アロイスが連れて行ってくれるって言うから。
他にも冒険者達と一緒だし」
ふふ、と両手を頬にあて、サラは可愛いポーズをする。
「男と一緒なんて、ダメだ!」
自分達も深夜に令嬢の部屋に来ているくせに、レイディンとラムゼルが反対する。




