混沌の解読はスズランの香りの声で
意識が覚醒した。
動かそうとしないまぶたとの戦いで、今日も辛勝した。
しっかりとした事故の流れもなく、冷たい水に頭と顔を任せた。
3年生になってから最初の登校日なので、他の日よりも緊張と疲れは追加される。
疲れを背負って戸を出た。
余りにも早くも、遅くもないように教室に到着して荷物を置いて、机の上に伏せて眠りに入った。
どうせ共通の友人もいない。
新学期が始まって最初の日なので、すべてのクラスが適切な案内事項で仕上げており、特別なイベントもなしに終礼の時間が来た。
休み時間ごとに寝てそうなのか、それとも私があまりにも憂うつに見えるのか、今日一日の間に私に先に声をかけてくる人は一人もいなかった。
学校を無事に終えて家に帰ろうと準備をしていた時、先生が私を呼ぶ声が聞こえた。
「そして、心紀さん、ちょっと先生と一緒に教務室行こう?」
「···はい」
心当たりがひとつもなかった。
疑問だけが頭の中をぐるぐる回った状態で先生と職員室へ向かった。
「さあ、ここにお座りなさい」
先生は隣にある小さな椅子を拾ってくれた。
私は訳も分からずその椅子に座った。
「去年担任の先生がかなえ先生だったよね?」
「あ…はい」
「実は叶と私は結構前から同期なんだ」
「······」
「聞いたんだ。心紀の話」
「はい···?」
「多分君が考えているその事についてのことだろう」
叶先生にわたしの話を聞いたのなら、 心当たりは一つだ。
「それで実は君と僕は今日初めて会ったけど、僕は君がどんな人なのかある程度知っている。 僕も、私もかなえのことを信じているから」
それを聞いて、心の中にあった不安がある程度なくなった。
実は私には消えない、消せない心の傷がある。
その傷跡は6か月たった今も消えそうになかった。
それは私にとってあまりにも残酷に近付いた。
愛する人がいた。
お互いのすべてを分けた人がいた。
一緒に永遠を誓った人がいた。
······その人は今私のそばにいない。
白血病の診断、それはとても衝撃的な知らせだった。
初期でもない末期のようだった。
最初にそれを聞いたときには頭が石ころに当たったみたいに、思考の流れが思うようにいかなかった。
最初に見ることができようになくなったのは彼の制服姿だった。
白血病末期の診断が学校に受け付けられて間もなく、退学が決まった。
近いうちに彼が制服を着る姿は見られなくなり、彼のか細い体をかばうのは純白の病院服だけだった。
二度目に見えなくなったのは彼の笑顔だった。
実は笑う姿が見えなくなったわけではない。
ただ、私がお見舞いに行くたびに、苦痛に耐えながら見せた、にせものの笑顔ばかりだった。
その間、幸せな日々を過ごしながら私に見せてくれた幸せな笑顔との距離感があまりにも非現実的で、同じ「笑顔」と呼んでもいいのか疑問になった。
私も彼の前では涙を抑えて笑顔を見せたが、それは悲しみと絶望を秘めた仮面であり、そのような感情が外に出ないように防ぐための盾に過ぎなかった。
結局、互いの笑顔は「笑顔」としての機能をすべて失うことになった。
最後に、彼の顔が見られなくなった。
手が触れられなくなった。
魂と触れ合わなくなった。
永遠に。
暁そら、その名前を数え切れないほど繰り返した。
これまで神を信じたことはなかったが、その時だけは誰よりも神を切実に見つけた。
一生の涙より多い量の涙を流した。
最後の最後まで希望を逃さなかったが、奇跡なんかは起きなかった。
そうやって忘れられない傷を経験して、 私の心には荒っぽいかさぶたがたくさんできた。
特に幸せという感情は、もう私の心の扉を叩かなくなった。
最初、私の事情をまともに打ち明けた相手がかなえ先生だったし、多分かなえ先生もその部分に気を使って3年生になる私をもう世話するのが難しくなって、信頼できる同僚の霞先生に話してくれたようだ。
「それでさ、心紀に話したいことがあるんだけど」
たった今三秒ほど経った回想のフィルムを切ったのは、霞先生の声だった。
「何の話ですか?」
「うちの学校に相談教室があるのは知っている?」
「はい······」
「去年までいた相談教師さんが今年でうちの学校での勤務が終わったの」
何も言わずにうなずいた。
「それでさ、相談教師の空席を心紀が埋めてくれない」
「え???」
あんまり慌てたせいで、かなり大きな声で驚いた気持ちを表現してしまった。
「それほど驚くことではないじゃないか, 一応最後まで聞いてみろ」
いいえ、先生、普通そんなことを聞けばどの学生もこういう反応をするでしょう。
「教師の職務を生徒が行うのはいけないが、自律サークルの形で生徒を中心とする相談教室を
運営してみようと思うんだけど、どうかな?」
「サークルなら部員がいなければならないでしょう」
「そこなら簡単に相談室の掃除を引き受けてくれる友達を2人ぐらい探せばいいだろう」
「無責任過ぎるんじゃないですか······」
先生は黙って笑って肩をすくめた。
「それと、どういう根拠で私が相談教師の穴を埋めることができると考えるんですか······」
「かなえはね、こう言ったよ。 心紀は同じ年頃の友達とは違ってとても成熟して、いつか言葉でいろいろな人を助ける人になりそうだと。私はまだよく分からないが, かなえの考えが
間違ってるのかな?」
「······」
「これは、私の個人的な考えだけど、おそらく相談教室に来る友達は皆それぞれの悩みと傷がある友
達だろう。心紀がそんな友達の心をよくのぞいてみたら、人それぞれある心の暗い部分を明らかにす
る方法も分かるようになるし, いつかみのりが光を灯してくれた人々の心が心紀に近づいてくれるん
じゃないかな?」
「心の暗い部分······」
「強要するのではないから、ゆっくり考えて明日までは知らせてくれ。今日はもう帰って休みなさい」
沈黙だけを残して職員室を抜け出した。
学校を出ると冷たい風が歓迎してくれた。
否定的な感情との摩擦で熱くなった頭を冷ましてくれた。
冷たくなった頭で霞先生が言ったことを思い出した。
たぶんこのままだと、意味もなく繰り返される同じ日々に食い込まれ、すでに薄れてしまった私という存在の光を完全に失いそうな気がした。
しかし同時に、友達の悩みを相談する仕事をうまくやれるかどうかも心配になった。
あれこれ考えてみると、家の前に着いている私の姿を発見することができた。
家の中はあまりにも静かだった。
お母さんは覚えていない幼い頃に亡くなり、お父さんは韓国で職を求めて韓国で生活しているためだった。
すぐにでもベッドに身を任せて休みたかったが、私のお腹だけはそうではないようだった。
制服を投げ捨てて、楽な服に着替えた。
向かったのは、普段よく行く路地にある小さなラーメン屋だった。
聞き慣れた声が歓迎してくれた。
ケンおじさんだった。
メガネをかけて口ひげとあごひげが濃く長い髪をひとつにまとめた、いつ見ても情がわく
顔だった。
ケンおじさんは私がすごく幼い頃からこのラーメン屋を経営してきたとお父さんに聞いた。
お父さんはケンおじさんと若い頃からすごく親しくしていたと言ってた。
そのためなのかケンおじさんは、娘をこれ以上世話するのが難しいからご飯だけでも作ってほしいというお父さんの要請に快く承諾したと言った。
「おお、久しぶりだね」
「こんばんは」
「いつもので?」
「はい」
客はあまりいなかったし、それさえもみんな一人で来た人たちだったので、店の中は静かだった。
ケンおじさんは水を渡してくれて、ラーメンを作り始めた。
いつのまにか客はみなかえって、ケンおじさんと二人きりになった。
「悩みでもあるのか?」
出来上がったラーメンを僕に渡しながら、優しい声で聞いた。
「悩みならいつでもあるんですよ」
苦笑して答えた。
「いや、普段より大変そうだけど」
「そうですか?」
「もうため息を三回もついたよ」
知らぬ間にため息をついたようだ。
「一応食事を先にしたいですね」
「そうだね。 僕のマナーが悪かったよね?」
食事を済ませた時にはすでに店はがらんとしていた。
ケンおじさんは皿洗いを終えて私のそばに座った。
私は今日学校で先生がおっしゃったことと私の考えを話した。
ケンおじさんは本人の問題であるかのように深く悩んでくれた。
「心紀はどうしたらいいと思う?」
「それが分からなくてこんなに悩んでいるのですよ······」
「やっぱりそうでしょ?」
「ええ······」
茶目っ気たっぷりの顔だったが、同時に純粋な目をしていて反応しにくかった。
「······」
それでも自分の悩みであるかのように真剣に悩んでくれる姿は頼もしい。
「すべきかどうか悩みの時は一応やってみるのはどう?足の傷跡こそ、その子がたくましく育ってきた証拠だと、そう思っているんだけど」
「ごちそうさまでした。 今日もありがとう」
「分かった、遅い時間だから気をつけて帰って」
おじさんは答えを悩んでいる私を配慮して、もう聞かなかった。
家に帰る道は静かだった。
見上げた空に月はいないので思わずため息をついた。
「にゃー」
街灯の光から半分身を現した猫の姿は今日初めて私の顔に暖かい笑顔を見せるように作ってあげた。
私が近づいてもその猫は怖がらなかった。
やさしくなでてみた。
やわらかい毛に囲まれた手には、心が安らぐ暖かさが感じられた。
今は光を失って冷たく冷めた私の心も、こんな暖かさに包まれていた時があった。
しばらく目を閉じて、暖かい感じの記憶を辿ってみた。
夕焼けの下での抱擁。
その暖かさは今でも忘れられない。
「バイバイ、猫ちゃん。」
いつまでも街灯に影を落としているわけにはいかなかったので、足を動かした。
家に着いて、服を椅子にかけてお風呂に入った。
ほかほか気運を体にまとったまま、空色のパジャマをまとった。
机の上に置いてある2つの病気から、睡眠薬と抗うつ剤を取り出して服用した。
窓の外を眺めた。
日の暮れた夜空は紫だった。
15階の高さから眺めた町には、光が舞うように揺れていた。
その瞬間、窓がひとりで開いた。
何かにとり憑かれたように、そこへ体が動いた。
ためらわずに身を投げた。
冷たい空気を横切り、重力を拒否できない、いや、拒否しない私の体は、落ちていた。
そうして地面との距離が「0」になろうとする瞬間だった。
······意識が覚醒した。
ひどい夢だった。
もしかしたら「これ以上ためらうな」という心の片方の叫びかも知れない。
ふと私という人には似合わない、強い意志が湧いてくるのを感じた。
この気持ちを伝えなければならない人が思い浮かんだ。
外出の準備を終え、ドアノブを握って悲壮な息を吐いた。
学校に着いてからすぐ職員室に向かった。
「先生、やります!」




