牢獄にて
どれくらい眠っていただろう。ミハルが目を覚ましたのは食事が届けられた物音によってだ。察するに夕飯であり、午後七時前後かと思われる。
「ミハル、食事よ!」
扉が開かれると懐かしい顔があった。どうしてかキャロルがミハルの夕食を届けてくれたようだ。
「キャロル、どうしてここに? 独房なんだけど……」
「アハハ、いやビックリしたよ。急にクェンティン司令に呼び出されて、食事を届けるように言われたの!」
どうやらクェンティンの気遣いであったようだ。ミハルが騒動に巻き込まれたことを彼は知っているらしく、またキャロルと仲が良いことまで調べているみたいだ。
「しっかし、学校を卒業して大人になったかと思ったら、全然成長してなくない? それで何をしたの? よくミハルが教員室に呼び出されてたのを思い出しちゃったわ……」
「私のせいじゃないよ。アイリ……」
言ってミハルは口籠もる。どうやらキャロルは独房入りした理由を聞かされていない感じだ。だとすれば軽々しく伝えてはいけない内容じゃないかと想像する。
「ああいや、ちょっとした凡ミスよ」
「ミハルが凡ミス? らしくないわね。クェンティン司令も笑ってたから、大した問題じゃないとは分かるんだけど。てかさオリンポス基地に配備されるんじゃなかったの?」
やり過ごそうとしたミハルであるが、色々と質問されてしまう。かといって問題の根元を口にしないことには詳しく説明できそうにない。
「本来ならそうだったんだけどさ、まあちょっとその問題があって独房に……」
「全然分かんないよ! それって先ほどの出撃と関係あるの!?」
キャロルの追求にミハルは諦めた。親友である彼女なら話しても構わないだろうと。そもそもクェンティンが彼女を寄越したのだ。口止めさえしておれば問題はないはずである。
「まあちょうど航宙機に乗っててさ、戦闘に参加したのよ……」
「え? 異動って自機持ち込みだったの? 航宙機に乗ってたタイミングなら、参加するべきじゃない? 警備飛行は少ないんだし、ミハルが独房に入れられるほど悪いことをしたとは思えないよ!」
同情するキャロルにどう続きを話せば良いものか。ミハルは頭を悩ませるけれど、やはり正直に話すしかないと思う。上層部に不満を抱かせるよりは適切だと信じて。
「いや、それが勢い余ってさ……」
非常に躊躇われる内容である。ミハルは重々しい口調で事実を述べていく。
「ゲートを通り抜けちゃったの――――」
唖然と固まるキャロル。彼女はようやくとミハルのしでかしに気付いた。それなら納得である。イプシロン基地へと配備された頃、毎日のように聞かされた規則であった。
「あんたとんでもないね? 何ていうか擁護できないじゃん。あれって政治的な問題でしょ?」
「うん、まあそんな感じ……」
残念な親友であるとキャロルは溜め息をつく。けれど、次の瞬間にはその事実が意味するところに気が付いた。
「や、だったらさ、ミハルは太陽系外の景色を見たの!?」
ずっと新星系に憧れていたキャロルはミハルの肩を抱くようにして聞いた。ミハルを急かすように。詳しく話してくれるようにと。
「そりゃあ見たけど……」
「じゃあ教えてよ! どんな感じ? 白色矮星が浮かんでたでしょ!?」
キャロルの方が詳しそうな気もしたけれど、ミハルは戦闘を振り返っている。確かに役目を終えた恒星が宙域にあった。しかし、それは割と距離があったと思う。戦闘中に気になるようなことはなかったのだから。
「確かにあったと思う。でも私は戦闘に集中してたから……」
「ああそっか、てっきり忘れてたよ! 裏側には艦隊がいたんだっけ。それなら、よく無事に戻れたね?」
「二十隻ほどが停泊してたけど、殆どが稼働してなかったの。まあそれで何とか逃げ帰ってこれたのだけど……」
それならあまり景色は見えなかっただろうねとキャロル。詳細を知りたがった彼女だが、落胆することはなかった。今はミハルが無事に帰還できたことを素直に喜んでいる。
「明日も時間があれば運んであげるから、落ち込まないでね? なんたってミハルはトップシューターなんだからさ。少しくらい大目に見てもらえるよ!」
元気付けてからキャロルは去って行く。
バタンと閉められた鉄扉がロックされると何だか寂しくなる。ミハル自身は何も悪くなかったというのに、ゲートを越えたという事実が罰に値してしまう。
キャロルと話をしたからか、ミハルは日常を取り戻していた。もう休暇のようには思えない。届けられた食事を口にしつつ、人知れず溜め息を零している……。
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