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Solomon's Gate  作者: さかもり
第四章 母なる星 
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出立のとき

 ミハルがオリンポス基地へと旅立つ日がやって来た。

 自身二度目のソロモンズゲート。彼女自身は落ち着いていたけれど、この度は出向じゃなく明確な別れである。次にいつ会えるのかも分からないし、その保証だってない。少しばかり感傷的になってしまうのは仕方がないことであろう。


「本当にお世話になりました。未熟な私を受け入れてくれたことには感謝しかありません。急な異動となってしまいましたが、セントラル基地での半年は決して忘れることのない大切な時間となりました。向こうでも必死に頑張ります。だからその……」


 学校を卒業し、セントラル航宙軍訓練所で半年を過ごした。そこからセントラル基地に配備され、ミハルは三ヶ月後にイプシロン基地へと出向している。実質四ヶ月程度しかここには居なかったけれど、濃密な時間は過ごした期間以上の思い出をミハルに与えていた。


「ずっと感謝の気持ちを忘れません。今までありがとうございました!」


 ミハルの挨拶に全員が拍手で応える。

 本当にこれで最後だ。朝一番の定期便が到着すれば、ミハルは旅立たねばならない。半年を過ごしたセントラル基地を巣立っていく。


「ミハルちゃん、頑張るのよ? カザインなんかに負けちゃ駄目よ?」

「そうじゃぞ。場所は違えど心は一つじゃ。嬢ちゃんの活躍と無事を儂は祈っとるからの」


 バゴスとシエラの話に頷くミハル。二人のエールに笑顔を見せている。


「ミハルちゃん、わたしもいつかゲートに行くから。また一緒に飛びましょう!」

「フハハ、胸を張れい。このセントラル基地で育ったミハルが余所のパイロットを圧倒する様が容易に思い浮かぶ! もうセッティングは完璧なんだ。つまらぬフライトはするなよ?」


 今度は整備士のファーガスと同い年のマイ。更にはマンセルがミハルに別れを告げる。

 全員がミハルを激励していたのだが、その中に浮かない顔をする者が一人だけいた。


「ミハルさん……」


 とても小さな声でフィオナが話しかけた。もうこれが最後とあっては声をかけずにいられなかったらしい。


「あたし、思い上がっていました……。本当にすみません……」


 頭を下げるフィオナ。誰よりも上手く飛べると信じていた彼女はもういない。上手く飛ぶどころか普通に飛ぶことすら満足にできないのだとフィオナは知ってしまったから。


「別に謝ることじゃないわ。けしかけたのは私だもの。フィオナがフライトを見つめ直してくれたらそれでいい。貴方には上積みの余地しかないわ。宙間機動を覚えさえすれば、きっと上手くなる。自分を信じて飛べばいいよ」


 大戦のトップシューターと聞いてフィオナが想像していた人物像とミハルは異なった。けれど、航宙機に乗った彼女は明らかに想像通りである。圧倒的なフライトは忘れない。ミハルが見せてくれた戦いをフィオナはずっと覚えている。


「頑張ります! 応援してください!」

「おいフィオナ、今は嬢ちゃんの送別じゃぞ? 何を言っておるんじゃ……」


「ああいや、構いません。フィオナは頑張ってね。他の隊員たちが楽できるように腕を磨いて。私はずっと応援しているから……」


 ミハルは笑顔を見せていた。本当に落胆したセントラル基地への配備であったが、今では最高の配属先であったと思える。何も分からないままゲート配備となっていたのなら、今はもう生きていないかもしれない。この素晴らしい仲間たちとも出会えなかったことだろう。


「ミハル、もう何も教えることはない。これから先、お前は自分自身の力で成長を遂げろ」


 最後にグレックから餞別の言葉がある。その内容通りにイプシロン基地から帰還したミハルに彼はもう何も言わなかった。


「本当ですか? 私はまだまだです……」

「謙遜するな。お前がそんなことをいうと大多数のパイロットには嫌味に聞こえる。堂々としていろ。お前は俺が目標とするパイロットでもあるんだ……」


 意外な話が続く。貶されるどころか最大級の賛辞がミハルにかけられている。


「私が……目標?」


「手術を決意した俺は再びパイロットとして上を目指すことにした。弟子ではあるが、アイリスとミハルは銀河間戦争でトップシューターだ。今の俺に並び立つ実績などない。だから俺はリハビリが終われば、ソロモンズゲート支部へ異動希望を出すつもりだ……」


 グレックは義足になってからの毎日を思い返していた。本当に腐っていたと思える。少しも面白くない日々。上を目指そうだなんて思考は生まれなかった。


「隊長が……イプシロン基地に……?」


「どこになるかは分からん。まあ俺もお前たちを除けば、そこそこの実績がある。五体満足で希望を出したなら受け入れてもらえるはずだ」


 ミハルは嬉しく思う。グレックが手術するだけでなく、パイロットとして再び歩み出そうとしているなんてと。


「でもあまり無茶はしないでください。ずっと棒きれだったのですから……」

「直ぐに慣れてやるさ。俺の心配はするな。エイリアンに侵略されてるんだぞ? 今は無茶をするべきだろう? それに……」


 グレックの話は不安を覚えるものであった。ミハルは心配していたのだが、次の瞬間には彼が中途半端な状態で挑むはずがないことを知る。記憶にある強い言葉が続けられていた。


「一番にしか価値はない――――」


 唖然としたあとミハルは笑ってしまう。そういえばこの人はそういう人だった。ミハル自身を負けず嫌いにした張本人。誰よりも負けず嫌いであるのは明らかだ。よって勝てる程度に回復するまでは挑んでこないはずである。


「分かりました。私はいつでも大尉の挑戦を受けて立ちますよ?」


「クソ……。アイドル的に扱われるのも今のうちだと思っておけ……」


 負け惜しみにも似たグレックの話を全員が笑っている。この会話はのちに現実となるだろう。全員が疑いなくそんな未来を予感していたというのに、どうしてかおかしくて仕方がなかった。


 程なく定期便の着港サイレンが室内に響く。もう本当にお別れである。ミハルは全員に敬礼し、出立の言葉を口にした。


「皆さん、どうもありがとうございました! またお会いしましょう!」


 再び会えると信じている。だからこそ笑顔で別れようと思った。だからミハルは再会を願う言葉を最後の挨拶にしている。


 これよりミハルはゲートへと向かう。まだ仮可動であるオリンポス基地へと旅立っていく……。

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