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Solomon's Gate  作者: さかもり
第四章 母なる星 
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総意

 GUNS統轄本部にある一室。集まったのはデミトリー総長の他、軍部を代表する重鎮たちである。此度の軍部内規約改定により、急遽通信会議を行うことになった。


「全員揃ったようなので始めさせていただこう。この度は軍部の規約改定についてだが、私が議事進行を請け負うことになった。早速だが、提出してもらった規約内容を本部は承認させてもらう。異論はないのだな?」


 デミトリーは総長として軍部の決定に早速と了承している。事前に受け取った内容は本部としても好意的な内容であったからだ。


 これまで派閥間の駆け引きによって迅速な決定が成されなかったこと。改定によると上級士官以上は配備先に五年以上留まれない旨が明記されており、各エリア間の軋轢が軽減すると考えられた。


「もちろんです。この決定は一兵卒のパイロットが主張したものでありますが、我らは首を縦に振るしかありません。何しろ彼女の意見を我々は無視できない。次戦を控えている以上、軍部にはミハル三等曹士が必要なのですから……」


 アイザックが代表して答えた。どうやら全員を納得させるためにミハルの名が使われたようだ。戦闘機パイロットの継続を盾にしたつもりもないのだが、実際には少しばかり脅迫めいていたのかもしれない。


「クェンティン大将も問題はないだろうか?」


 やはり影響力を持つ者には確認がある。次にデミトリーが聞いたのはクェンティンだった。彼が難色を示しているのなら、この話は頓挫しかねない。木星圏の派閥を牛耳る彼は強い力を有している。


「いや、署名したままです。派閥間の問題は私が一番理解しておりますから。イプシロン内の異動でさえ簡単ではない。ましてオリンポス基地の仮運用が始まっています。このままでは益々補充が難しくなるでしょう」


 クェンティンはイプシロン基地司令長官としての視点を語る。所属戦団以外からの補充は実際に困難だった。だからこそ彼は賛成に投じている。


「イプシロン基地にミハル三等曹士がいなくなるのは頭痛の種であるが、我らは同じゲート宙域を守護する者だ。ゲート宙域に限って言えば、戦力の増強となっている。また地球圏から木星圏への多大な人員補充には感謝しかない。これから更なる人材交流を活発化させ、人類は共に太陽系を守護していかねばならない」


 クェンティンの演説にも似た話に自然と拍手が巻き起こる。議題の中心である地球圏や木星圏だけでなく、割と冷遇されていた火星圏もこの度の変化を好意的に捉えていた。


「セオドリック中将も異論はないだろうか?」


「異論などありません。此度は火星圏のパイロットを多く重用していただいた。感謝の言葉はあれど、どうして不満など口を衝きましょうか。軍用機生産ラインを火星圏に新造していただいたことにも感謝しております。今火星は軍需景気に沸いており、パイロット志望者も拡大傾向です。期待していただければと存じます」


 火星の豊富な鉱物資源をそのまま活用できるように、火星には生産拠点が新設されていた。これにより火星プラントや火星圏ユニック群は好景気となっているらしい。長く低迷していたエリアであるが、戦争に対する気運が高まっている。


「反対意見はないようなので、これにて改定法案を受理し即時施行する。本部としては改めて軍部の方々に感謝を申し上げたい。我ら人類はこの絆を未来永劫続けていこうではないか」


 議題を締めるデミトリーに割れんばかりの拍手が送られる。全員が立ち上がって法案の施行を祝福していた。


 拍手が鳴り止むのを待って、デミトリーが議題を進める。


「次に軍部より提出されたSOA作戦に関してだが……」


 先の大戦前にも計画は進んでいた。ある程度の形になったところで、再びその作戦について審議するようだ。なぜならイプシロン基地建造は専守防衛が基本とされており、提出された作戦は規定に反していたからだ。


 知恵と戦略の女神アテナがゼウスより受け取ったイージスの盾。頭文字を取ったSOA作戦はその名称とは異なり、侵攻計画の一部である。


 計画に使われるのは土星の衛星パンドラ。直径80キロというそれに推進機を接続し、ソロモンズゲートへ艦隊の盾として送り込むという作戦だった。


「仮決議では既に賛成多数を得ている。今一度話し合いをし、本会議にかけるという段取りだ。当初は戦争に否定的だった議員たちも先の大戦には肝を冷やしたらしい。敵がいる限り戦争は避けられんと理解したようだ」


 既に仮決議を終えたゲート圏防衛法案の改定は、軍部での意見交換を経て成立する運びとなっている。それによりSOA作戦は合法となり、晴れてGUNSは新星系へと足を踏み入れることになった。


「総長、提出した計画書は軍部の総意であります。受け身の戦いが続くのであれば、いずれは破綻し敗北を喫することでしょう。今の法案では開戦中にしか攻撃が許されておらず、平時は威嚇としてゲートに誘導弾を放つことすらできません。カザインが和平を望んでいないのは明らか。ならば我々はその姿を見せつけるべき。我らが守るだけではないことを知らしめるべきです」


 挙手をし発言したのはクェンティンである。彼は改革に熱心な将官の一人だ。散々な結果となった大戦を考えると、現状が如何に危うい状態であるのか理解できた。


「デミトリー総長、私も同意見です。この度ゲートへ配備され、思い知らされております。ここでは毎日のようにカザインの偵察機がやって来るのです。神経をすり減らす日々。せめて向こう側に陣取る艦隊へ攻撃を仕掛けられたのなら、ここだけでなく太陽系全体の平和にも繋がるでしょう」


 続いてアイザックが意見した。

 オリンポスの司令長官に任命されたアイザックは既に基地へと配置されている。現場に出なければ分からない緊張感を味わったと彼は言う。


 この場には将官以上の十六人が集っていたけれど、全員が頷きを返していた。彼らもゲート配備が決まっているのだ。その順番が回ってきたときを考えると、ゲート付近が安定する法案改定に首を振るはずもない。


「現場の意見は何よりも尊重したい。人道的かどうかの側面よりも、我らは同志の守護を考えるべきなのだろう。かといって世間にはまだ戦争反対と声を上げる団体もある。反応を見ながらとなるが、法案はこのまま審議にかけさせてもらう」


 ヒューマニズムを過大解釈したような団体は少なくない。デミトリー自身も元々はその支持者である。しかし、戦争を目の当たりにした彼は正義かどうか分からなくなっていた。聞く耳を持たないエイリアンにまで気を配るべきなのかと。


「それは難しくデリケートな問題ですけれど、総長にはよろしくお願いしたい」


「承知している。未だに対話だとか口にしている彼らは間違っている。無責任にも声を上げるだけなのだ。民衆やエイリアンのためというより、利益享受によって動いているだけ。相手にするつもりはない……」


 毅然と言い放つデミトリー。民衆を守るという責任は反対勢力を切り捨てる判断となった。長く話し合いを続けてきた彼も潮時と考えたのだろう。


 人類は動き始めていた。新たな局面へと向かうため。太陽系守護という大義名分を得て、未知なる銀河へと人類は進攻していく……。

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