出撃
突然の出撃である。何の教練もしていないというのに、フィオナはいきなり出撃を命令されてしまう。
卒業式を待たずして木星まで来た。ずっと宙間飛行を練習していたけれど、いきなり実戦だなんて考えもしないことだ。
「お爺ちゃん……?」
ドックへと続く通路を走るフィオナは不安げにバゴスへと声をかけていた。
「何じゃ? 怖じ気づいたか? フィオナが自分で蒔いた種じゃ。それに儂らは戦闘機パイロットじゃからな……」
期待した話はなかった。優しい祖父であれば、出撃しなくても良いように話をつけてくれると考えていたのに。
「きっとフィオナは何もできんじゃろう。じゃが、心配する必要はない。始めから戦えるなんて一部の才能を持つ者だけじゃ。お前はただ宙域に浮かんでいれば良い……」
「いやそれじゃ、あたし死んじゃうじゃない!?」
フィオナは動揺している。訓練所をパスしてきた彼女にはまだ覚悟が足りないようだ。
「フィオナはラッキーじゃよ。前を飛ぶ機体。まずその機体についていくことから始めなさい。敵機は気にしなくて構わん。ついていくだけで安全は保証される……」
「えっ!? ついていくだけ? 相手も撃ってくるんでしょ!?」
「もちろん撃ってくるが、後方位置を確保するだけでいい。後衛機を危険に晒すようなヘマはせん。グレックを信じるのじゃ。追いかけっこは得意じゃったじゃろ?」
バゴスのことは信頼しているけれど、グレックについては今日初めて会った人だ。全てを任せるなんてできそうにない。
「いやだけど、あの人って義足だよ!? あたしを守るなんて無理だって!」
「そういや嬢ちゃんもそんなことを言っておったのぉ。じゃけど、嬢ちゃんは自分の身を案じるより、グレックを心配しておったな……」
返答にはムッとするフィオナ。同じようなシチュエーションであるのに、内容がまるで違うと言われてしまう。これでは腕前だけでなく、度胸までもが劣ると自ら証明しているかのようだ。
「分かったわよ。お爺ちゃんに騙されてあげる……」
「ふはは、それでこそ我が孫じゃ。早う着替えてこい。我らの数は少ないが、二年近くも死者を出しておらん。怪我人すらおらんのじゃ。名誉ある死傷者名簿に名を連ねるつもりはないんじゃろ?」
「あ、当たり前でしょ!?」
言ってフィオナは更衣室へと駆けていく。
バゴスはしばらく眺めていたが、自身も更衣室へと急ぐ。初実戦に挑む孫娘がどのようなフライトを見せてくれるのかと期待しながら……。
本作はネット小説大賞に応募中です!
気に入ってもらえましたら、ブックマークと★評価いただけますと嬉しいです!
どうぞよろしくお願いいたしますm(_ _)m




