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Solomon's Gate  作者: さかもり
第四章 母なる星 
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セントラル基地の洗礼

 ミハルの昇進から一ヶ月が経過していた。


 仮運用が始まったオリンポス基地は今もなお地球圏から運ばれてくるパーツの組み立て作業に追われている。概ね完成といって構わない程度に仕上がっているけれど、戦闘従事者が異動するのは二週間後となっていた。


 セントラル基地は朝の定期便にて二人のパイロットが補充されている。一人はマンセル・コックス上級曹長であり、あと一人がフィオナ・ハワード一等航宙士だ。


 改正された軍規により、試験の合格者は訓練所配備を拒むことが可能となり、フィオナはその試験に合格している。かといって試験は基礎的な機動を習得しているパイロットであれば誰にでもパスできるという簡単なものだ。また既に配備済みの二等航宙士は施行に伴い一等航宙士へと昇格し、各基地で多くのパイロットが昇進を果たしていた。


「マンセル・コックス上級曹長であります。此度は軍部の新しい方針に基づき木星圏セントラル基地へと配備されました。求められる役割は理解しております」


 まずはマンセルの挨拶から。彼はグレックより二つ若いだけらしい。階級は大きく離れていたけれど、経験豊富な彼が役立つだろうという人選のようだ。


「マンセル上級曹長、よろしく頼む。見ての通り少数精鋭の部隊だ。恐らく聞かされているより激務だと思う。申し訳ないが、力を貸して欲しい」


「グレック大尉、勿体ないお言葉ありがとうございます。大尉が地球圏で成し遂げられた功績と同じくらいの戦果を上げるつもりです!」


 調査書を読む限り適材であると思う。真面目すぎる性格のようだが、候補者の中で最も欠点が少ないパイロットとの評価だ。地球圏では辺境基地の配備だったようで、連続勤務にも慣れているらしい。


 続いてフィオナの挨拶となった。彼女はチラリと祖父を一瞥してから話を始める。


「フィオナ・ハワード一等航宙士です。生まれは地球ですが、両親は木星圏出身です。第二の故郷ともいうべき場所であり、目標とするパイロットが育った場所。実戦が待っていますけれど、恐れよりも期待の方が大きいです。辞令をいただいた瞬間からやる気に満ちていますので……」


 フィオナもまた決意を述べている。戦闘は避けられない未来だが、既に気持ちの整理は済んでいるみたいだ。


 また彼女は自己紹介が終わるやミハルに視線を向ける。敵意ではなかったものの、決して憧れの人物を見るような目ではなかった。


「ミハル三等曹士、お久しぶりです……」


 どうやら挨拶だけでは終わらない感じだ。フィオナはあのレースからずっと溜め込んでいた。下手くそとの評価が受け入れられないままである。


「あ、お久しぶり……」


 どう会話して良いか分からなかった。アイリスであれば扱き下ろしたに違いないが、ミハルとしては険悪な関係など望んでいない。かといって明確に目標とされてしまったミハルは馴れ合いも違うように思えている。


「あたしともう一度、勝負して欲しい……」


 ミハルが言葉を続けなかったからか、フィオナは本題を切り出す。とても新入隊員の挨拶といった雰囲気ではなくなっていた。


「おいフィオナ! お前は新人じゃぞ!?」

「お爺ちゃんは黙ってて! あたしは引き下がれないの!」


 バゴスが発言を取り消すように言うも、フィオナは首を振る。この日のために頑張った日々。その成果を直ぐにでも彼女は確認したいようだ。


「ミハル、お前が引っ張ってきたコレはなんだ? バゴスさんの孫とは聞いているが……」


「すまんのぉ、グレック。一人娘じゃから我が儘に育ってしまったのじゃ……」


 ミハルは視線を外している。どうしたら良いのか分からない。従って上官であるグレックが決めたことに従おうと思う。


「フィオナ、悪いがミハルは夜勤明けだ。日を改めろ。それにあれだけ力量差を見せつけられただろ? 数ヶ月で追いつけるはずがない……」


「嫌です! ミハル三等曹士はいつでも挑戦を受けると言ってました!」


 頭を抱えるグレック。そういえば軍規の改正により訓練所を経験していないことを思い出していた。上下関係を叩き込まれる訓練所の有り難さを感じずにはいられない。


「大尉、私なら大丈夫です。たとえ二日寝ていなくとも、フィオナに負けるなんてあり得ない。就寝前の軽い運動みたいなものですから……」


「火に油を注ぐな。仮につまらん事故を起こして怪我などしてみろ? 俺はクェンティン司令だけじゃなく、アイザック司令にもどやされるんだぞ?」


 グレックは嘆息する。バゴスの孫娘でなかったのなら、厳しく処分していただろう。けれど、セントラル基地はバゴスに助けられてきたのだ。軍隊としての規律は徐々に教え込まねばならないと文句を飲み込んでいる。


「グレック大尉、緊急出撃です! ネオマルセイユ航宙灯沖800kmの地点に未認証機群! 詳細は追って連絡します!」


 ややこしいタイミングで出撃となってしまう。だが、グレックは笑みを浮かべている。言い聞かせる手間が省けたといった風に。


「出撃する。ミハルとマンセルは待機。マイはバゴスさんの支援に付け……」


 ミハルに無理をさせるわけにはならない。未認証機など自身とバゴスさえいれば問題なく片付くはず。だとすれば出撃するのは四機で十分。グレックは視線を合わせてから出撃予定機を口にした。


「フィオナは俺の支援機だ――――」

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