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Solomon's Gate  作者: さかもり
第四章 母なる星 
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インタビュー

 オープンレースに勝利したミハル。そそくさとホテルに帰りたかったけれど、勝者であり主役でもあった彼女が解放されるはずもない。


 優勝者としてミハルは競技場の中央に設営された舞台へと呼ばれている。


「さあ、皆様お待ちかね! 優勝しましたミハル・エアハルト一等航宙士にお越しいただきました!」


 再び大歓声を浴びることになった。目立つのはあまり好きではなかったが、これも任務の内である。軍部のイメージアップを彼女は請け負っていたのだ。


「ありがとうございます」


 ペコリと頭を下げる。心証は大事だと無理矢理に笑顔を作りながら。


「いやあ、とても先ほどのレースを展開したパイロットだとは思えませんね? 可愛らしいお嬢さんであるというのに、レースは荒々しさを感じるほど攻めていました。それについては如何でしょう?」


 よく分からない質問だ。見た目とレース内容に関連性があるとは思えないが、ここも笑顔で返している。


「私は別に普段通りです。負けたくない。だからこそ攻めたフライトになったのかなって思います」


「ああ、そういえば昨日も仰っていましたね? ご自身は相当な負けず嫌いなのでしょうか?」


「えっと、まあそういうことですね……」


 今日は泣かないと決めていた。笑顔で最後まで乗り切る。もう二度と弱さを見せるなとアイリスに命じられているのだ。


「レースは昨日宣言されましたように圧勝です。いや、圧勝という言葉は適切じゃありませんね? 私の語彙力ではとても表現しきれない圧巻の内容でした。ご自身の調子はどうだったのでしょうか?」


「調子はまあ普通です。特に昂ぶることもなかったし、気負うようなこともありませんでした……」


 妙に落ち着いていたわけ。自らハードルを上げたというのに平常心でいられた。司会に問われて、ようやくとミハルはその理由に気付いている。


「それは勝って当然という意味でしょうか? 異例の十一番枠に加え、三秒のハンディキャップがありましたけれど……」


「昨日も言いましたけど、私は昨年度の映像を見直して確信していました。今の私ならあのレースも勝っていたと……。だからハンディを与えようと考えたわけで、それでも学生たちを圧倒しようと考えていました。負けるはずがない。だから昂ぶることはありませんでした……」


 昨年度のレース映像は成長を感じ取れるものであり、どうあっても学生相手に遅れを取るとは思えなかった。ミハルは明確に勝利の場面を思い描けていたのだから。


「学生たちに花を持たせるつもりは?」


「いえ、少しもありません。なぜなら私は出場選手のお爺さまに鼻を折ってくれと頼まれていましたし……。世界の広さを見せつける。広大な銀河が自分を中心に回っていないこと。それを気付かせるためには、ただの勝利では駄目だったんです……」


 フィオナと面識はないし、かつての自分と同じ想いを抱かせるのは悪い気もした。

 なぜならミハルは絶望したからだ。絶対に無理だと心が折れそうになってしまったから。


「どなたのお爺様だったのでしょうか?」

「それは秘密です。そこまで話しちゃうと可哀相でしょ?」


「これは一本取られましたね? 分かりました。この話はこれで終わりにしましょう。では最後にミハル一等航宙士から応援してくれた方々にメッセージをどうぞ!」


 一応はフォローするつもりだ。ミハルは凡庸すぎる才能に気付いたあと、けしかけられていた。心が折れないように再び火を灯されたのだ。


 落胆させるだけではいけない。それは依頼を受けた瞬間から考えていたことである。


「えっと、ミハル・エアハルトです。私は地球圏に住む方々にお願いがあって参りました。地球は平穏そのものですけれど、実をいうと太陽系は存亡の機にあります。前戦では多くのパイロットが失われて欠員補充もままならない状態です。共にレースで競った学生たちだけでなく、放送を見ている大勢のパイロットたち。どうか力を貸してください。私はこの青空のずっと向こうで待っています。背中を追いかけて欲しい。戦う決意をして欲しい。太陽系に生きる私たちは同じ人類です。青く美しいこの母星を失ってはなりません。それには他人任せではなく、貴方自身が行動を起こさなきゃいけない。もう代わりに守ってくれる人々は残っていないのですから……」


 ミハルは現状を訴えた。これにて彼女の任務は終わりだ。注目を浴び、レースにも勝った。追加的にはバゴスの個人的な依頼もほぼ達成している。


 あとは地球人たちがどう捉えるのか。ミハルは更に声を上げることもできたが、必要以上に呼びかけるのはやめた。徴兵なんて事態にならぬ前に彼らが気付いてくれることを期待している。


「ミハル・エアハルト一等航宙士でした!」


 万雷の拍手に見送られながらミハルは会場を去る。笑顔を浮かべ、懸命に手を振りながらの退場だ。ミハルは与えられた役割を十二分に全うしたはずである。

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