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Solomon's Gate  作者: さかもり
第四章 母なる星 
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オープンレース再び……

 翌日も快晴となった。雲一つない青空が拡がっている。天候に変化がないユニックに生まれ育ったミハルにとっては雲どころか天井が青いだけでも違和感を覚えてしまう。


 セントルイスレース競技場には三十万人という観客が詰めかけていた。通常のレースに加えオープンレースという特別レースが組まれていたからである。


『第十二レースは大混戦となりましたが、着順は以下の通りです……』


 既に最終レースが終わり、オープンレースの準備が始まっていた。ターンポールの向きや長さが色々と変更されている。


『さあ、お待ちかねのオープンレースです! 主役とみられたミハル一等航宙士がハンディキャップを負うということで急遽投票対象レースとなりました。解説のウチムラさん、その辺りをどうお考えですか?』


 ミハルが大外枠と三秒のハンデを負うことでレース協会は本来のオープンレースではなく、通常投票を受け付けるレースとした。

 それは注目度を上げたいGUNSがグランプリレース協会に働きかけたことが大きい。学生の大会では御法度であったものの、パイロット不足に苦心する軍部の事情を汲み、此度のオープンレースは投票対象レースとなっている。


『一番人気は三号機を引き当てたフィオナ・ハワード選手です。彼女は予選会のタイムでもトップタイムを記録しています。三秒というハンデに加え、本来ならあり得ない十一号機という不利にあるミハル一等航宙士は人気を下げていますね……』


『確かに現状のオッズはフィオナ・ハワード選手が1.9倍の一番人気。続いて一枠のカーティス・エドウィン選手が2.6倍となります。大注目のミハル・エアハルト選手は3.8倍の三番人気です』


 ミハルは現時点で三番人気となっていた。大きすぎるハンディキャップを考慮した結果、学生たちの中でトップタイムを叩き出しているフィオナ・ハワードが一番人気となっている。


『ミハル一等航宙士のレースは一年前のものですが、確認する限り彼女はテクニカルコース向きです。オープンレースで使用する今回のコースは世界でも屈指のスピードコース。トップスピードがものをいうこのセントルイスレース競技場に彼女は不向きであり、何よりハンディの三秒が大きすぎますね。技術よりも度胸が試されるコースですし、私は対抗に印をつけています……』


 どうやら解説員もミハルには期待していないようだ。ハンデがなければその限りではないだろうが、大きすぎるハンディキャップが懸念されているらしい。


『なるほど、テクニック的にはミハル一等航宙士に分があるとして、ウチムラさんの評価ではコース適性が劣るということでしょうか?』


『その通りです。恐らくラップタイムは最速を記録するでしょうが、ハンデを覆すほどもないということです。ただし連は外さないでしょう。二着ないし三着。安定はしているでしょうから、機券を購入される際には二着三着へ彼女を絡めたものが望ましいかと思われます』


 一応は評価されているみたいだが、単勝投票では三番人気である。やはりハンディキャップがネックとなり、積極的な投票には結びついていないようだ。


『適切な機動をする技術がミハル一等航宙士にはありますけれど、レーサーに必要とされる攻める感覚が不足しているように感じますね。特に変更されたコースは地球上で最も速度が出る設定です。フェアラインも広く、技術で巻き返そうとする彼女は恐らく苦戦するでしょう』


『ウチムラさんはミハル一等航宙士がコースに苦戦し、僅かに届かないだろうと予想されています。対する学生たちはどのようなレースを繰り広げるのでしょう! さあ、スターティンググリッドに選手たちが入場してきます!』


 特別レースであり、参加選手が一人ずつ紹介されていく。賞金のないオープンレースではあったのだが、投票可能となったせいか入場前から盛り上がっている。本来なら学生のレースまで一人も席を立たないだなんて事態はあり得なかったことだろう。


『さあ、お待ちかねのこの人! 十一号機に搭乗されますミハル・エアハルト選手!』


 最後にミハルの登場となった。控え室から通路を歩き、競技場の全貌が露わになるや地鳴りのような声援が彼女を迎えている。


 担当の整備士と話をしてから、自機へと乗り込む。レース機は相変わらずアナログ感満載である。少しばかり懐かしく感じるのは、やはり鮮明な記憶としてあの日のレースが残っているからだろう。


「プラクティス周回で作戦の確認を済ませよう……」


 競技者には予めコースの詳細が手渡されていた。スピードコースだけに攻め込むポイントは多くない。けれど、中盤にある180度ターンや中盤から後半にかけての立体スラロームコーナーは明らかにテクニックを要求される場面だ。


 ミハルはそれらのテクニカルターンで大幅にタイムを短縮し、あとは全てのターンを攻め続けて少しずつ縮めていこうと考えていた。


 実際のレースと変わらず一号機から順に最大二周のプラクティス周回へと入っていく。

 ミハルは目を瞑っていた。既にエンジンは始動しており、管制からの許可待ちである。


『十一号機、発進してください』


 了解と返事をし、ミハルはスロットルを踏み込む。かつてはその馬力に驚いたミハルであったものの、戦闘機に慣れた彼女には何の問題もなかった。


「三秒というハンデがあるのは別に不利じゃない……」


 一つ目のターンは往々にして混雑し、無駄な減速を強いられる。だとしたら三秒遅れでのスタートには無駄がない。実質的にハンデは三秒もないはずとミハルは考えていた。


「上手くいけば二つのターンで一秒は短縮できる……」


 実際に飛びながら思考を纏めていく。まだ全力ではなかったけれど、ターンの感覚さえ掴めたらそれでいい。次なるターンへ向けて機体の向きや機動を確認していくだけだ。


「このミドルストレートに入るターンは絶対に失敗できない」


 中盤にあるミドルストレート。そこへ入るにはほぼ反転となるターンポールをクリアせねばならない。加えてそのターンポールは水平でも垂直でもないリーニングポールだ。中途半端な角度が厄介なターンであり、加えてフェアゾーンは他と比べて異様に狭い。ミハルとしては腕の見せ所である。


「ここは最難関だね……」


 コースマップを見るだけでは分からなかった。実際に飛んだ今であればこのターンがコース攻略の鍵を握ると理解できた。スピードを失った機体はせっかくのストレートを生かし切れない。逆にトップスピードでクリアできたとすれば、そのパイロットは勝利を掴み取ることができるはずだ。


「やっぱり後半の立体スラロームもテクニカル……。微妙に間隔と傾きがズレているのは嫌がらせかな……」


 事前に考えていた通りだ。立体スラロームは細やかな連続ターンを要求される。フェアゾーンも幾分か狭い設定であり、一年前のミハルであれば攻めきれなかったことだろう。


「それで最後はホームストレートね……」


 ホームストレートに入る直前のターン。ここはフェアゾーンも広く学生たちにも難なく回れるはずだ。しかし、ミハルは学生たちよりも速く回ろうとしている。適切な位置取りを確認していた。


「うん、このコースは簡単だわ……」


 一周回っての感想はそんなものであった。難易度はセントラルレース競技場と比べて数段落ちる。スピードコースという呼び名に違和感を覚えていた。


『ああっと、ミハル選手はプラクティスを一周で打ち切っている! 何らかのトラブルでしょうか!?』


 一周で引き上げたミハルに実況が声を上げる。二周まで認められている練習飛行を打ち切った理由が理解できない模様だ。


『どうでしょうかね。プラクティスの様子を見る限りは機体に問題はなかったように感じます。そつがないフライトでした。機体に問題がないのであれば、彼女自身の問題かもしれません。慣れないレース機のGが影響した可能性があります』


 怪我や機体の異常は考えられなかった。解説のウチムラはミハルの体調が悪くなったと予想している。


『確かにレセプションのあとも懇談などがあったと伺っています。体調面が心配です。何事もなければいいのですが……』


 スタンドがどよめいている。一番人気ではなかったものの、ミハルは三番人気だ。出場登録が抹消されれば払い戻しはあるのだが、既に投票は打ち切られており観衆は機券を買い直すことができない。


 ホログラムビジョンに降機したミハルが映し出された。そこでようやく観客の動揺は収まっている。笑顔のミハルは彼らを落ち着かせていた。


『どうやら問題なさそうです。単にコースの確認が済んだだけのようですね』

『プロでもあまりいませんね。私としては投票もあることですし、二周をかっちりチェックして欲しかったものです』


 解説者はミハルを批判するように言った。確かに投票者がいるのであれば、ミハルはその辺りも考慮するべきであったのかもしれない。


『全十一機がピットに戻って来ました! 燃料の補給後に再搭乗となります!』


 着々と準備が整っていた。生演奏によるファンファーレが鳴り響き、レース前の雰囲気を高めていく。既に観客は盛り上がっていたけれど、否応なしに熱狂させられていた。


 ミハルは自機に戻り、再び目を瞑っている。特別に用意されたミハル用の発進ランプ。彼女は全機が飛び立ったあと、三秒後にスタートすることになる。


 今もまだ落ち着いていた。絶対に勝たねばならぬレースであったけれど、緊張どころか昂ぶることすらない。それは成長なのだろう。一年前とは明確に異なっていた……。

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