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Solomon's Gate  作者: さかもり
第四章 母なる星 
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ベゼラ・リグルナムの帰還

 地球より250万光年離れた広大な銀河。本来なら人類との邂逅など考えられなかったけれど、カザイン光皇連の居住星系は今や銀河系と隣り合っている。


 集結していた宙間建造物アルバ群だが、それは銀河間戦争が勃発してから徐々に間隔を設けていた。しかし、それらはただ拡がっただけであり基本的には母星ゼクスの重力圏である。


 母星ゼクスから更に50AU離れた宙域に浮かぶ星は辺境惑星ガリアという。そこは鉱物資源の供給地であり、リグルナム星院家が管理していた宙域だ。だが、バーストの避難政策によってガリア宙域は事実上廃棄されていた。


「殿下、よくぞご無事で……」


 ガリア圏に浮かぶアルバは四つだけである。それらは元鉱物採取員の居住区であり、鉱物保管庫並びに作業場だった。


 廃棄されたはずのアルバだが、どうしてかそれらは再稼働している。多数の小型船が停泊し大勢が忙しなく作業しているようだ。


「ああマルキス、心配をかけた……」


 船から下りてきた男性はベゼラ・リグルナム。彼は光皇路での暗殺未遂を回避し、所領の一つに戻ってきた。しかし、ベゼラが到着したのは本邸があるゼクスとは異なり辺境惑星ガリアである。


「殿下、やはりデボルセは……?」


「彼は最後まで忠臣だった。デボルセがいたからこそ私がここにいる。彼によって導かれ、私は光皇連を率いる決意をしたのだ。彼の意を汲み戦おうと決めた……」


「そうでございましたか……。残念ですが、デボルセも本望でしょう。殿下の身代わりとなり、光皇の下に還ったのでしたら……」


 マルキスはデボルセの友人であったようで祈るように目を瞑っている。自ら皇子の救出に向かった彼を悼んでいた。


「それでマルキス、クウィズはどこへ行った?」


 ベゼラと同じく光皇路から逃げ延びたクウィズ・ヘーゼン皇子の話になる。各々が無事帰還したはずだが、ベゼラは何も聞かされていない。


「分かりません。宙間の通信は行っておりませんし。恐らくヘーゼン星院家は小惑星帯にあるアルバへ引き込んでいるかと思われます」


「無事だと良いのだがな……。カザイン家を打破するならば彼の力が必要となる」


 光皇家の打倒を目論む二つの星院家は光皇路が出現した直後から極秘裏に動いている。銀河間戦争の気運が高まるや計画を実行し、何とか領民の一割をゼクスから連れ出すことに成功していた。しかし、ヘーゼン星院家とは密な連絡が取れておらず、救出作戦開始時に密談をしただけであるらしい。


「それで食糧は持つのか? ここは長く放置されていたのだろう?」


「今のところは問題ございません。闇バイヤーから買い受けも行っておりますし、第四アルバにある鉱夫用生産施設をフル稼働しています。レンズ芋を量産して食いつないでいる状況です」


 レンズ芋は主に家畜の餌であった。ゴムのような食感とキツい匂いがあったものの、栄養価が高く栽培サイクルが一ヶ月と短い。本来なら進んで食べたくないものであるが、効率的理由で生産されている。


「領民には苦労をかけるな……」


「致し方ありません。先に移住した領民はまだ幸せです。ゼクスに残された領民たちは既に招集され失われたことでしょう。生き延びただけでも有り難いと全員が感謝しております。それにゼクスのアルバ群でもレンズ芋の生産に切り替わっていると聞きました。そのうち光皇家であろうと食卓に並ぶのは飼料的なものになるはずです」


「ここの可動具合はどうなっている? エネルギーは十分か?」


 ベゼラは質問を続ける。打倒光皇家を果たすとしても、それまでに地盤を固めねばならない。出兵するにも巨大戦艦を持ち出すことは叶わず、彼らは小型船に乗り逃げ延びただけである。


「圧倒的にエネルギー不足です。ガリアに質量を投下して発電しておりますが、それらのエネルギーは大半が空調設備に割かれております……」


 恒星を失っただけであるというのに、カザインは日常生活もままならなくなっている。恒星への依存度が高すぎた結果のようだ。


「まったくもどかしいな……。それで父上はどうしている?」


 気になるのは領民だけではない。現当主であるテグル・リブ・リグルナム皇爵はベゼラの父親である。彼は表だって動けないため今もゼクスの所領に留まっているはずだ。


「リグルナム皇爵は光皇の命により本家から皇都レブナへ向かわれました。恐らく人質として囚われているのだと思われます」


 カザイン光皇家は先手を打っていたらしい。レブナに隔離しておけば下手な動きは見せないだろうと考えているようだ。


 嘆息するベゼラであるけれど、小さく頷いてもいる。


「父上には申し訳ないが、それは好機と捉えよう」


「好機……でしょうか?」


 マルキスには分からなかった。尊敬する父が幽閉されている事実を好機と考えるだなんて。清廉潔白であった皇子が変わってしまったのではないかと疑ってさえいる。


「我らが行動できるのは父上のおかげだ。人質を取ることで光皇家はひとまず内乱を予防できたと考えているはず。私やクウィズが死んだと考えるのなら尚更だ。残党など光皇家は気にしていないだろう」


「ああ、なるほど。計画が上手くいったのも皇爵のおかげであるわけですね?」

「民衆を抑え込むのに苦労しているだけでなく、光皇家は同時に戦争をしているのだ。有象無象が何をしようと構っている暇などないだろう」


 ベゼラは改めて決意を固めた。父に代わり世を救うのだと。皇子として立ち上がらねばならない時であると。


 覚悟を言葉に……。ベゼラは集まった家臣や領民に対して声高に宣言している。


 カザイン光皇を必ずや討ち取る――――と。

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