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Solomon's Gate  作者: さかもり
第四章 母なる星 
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セントラル基地にて

 統世歴799年7月8日


 イプシロン基地から帰還したミハルは慌ただしい日々を過ごしていた。しかし、以前と同じかといえば少しだけ異なっている。新たな隊員が配備されたことにより、夜勤当番の割り当てが減少していたのだ。それでも毎日のように出撃はあったけれど、随分と楽になっている。


「ミハルちゃん、さっきはごめんなさい。足を引っ張っちゃって……」

「ああ、いいのいいの! 私はもっと勘の悪い後衛機を経験してるからさ!」


 ちょうど出撃を終えたあとらしい。ミハルの支援は同級生のマイが請け負った模様。どうやらマイはミハルの支援を完璧にこなすことができなかったようだ。


 もうグレックはミハルに小言を並べなかった。エイリアン相手にトップシューターとなったミハルは彼の手を離れた感じである。


「おいミハル、甘やかすんじゃない。それでマイ、何だ今の機動は? ミハルに頼りすぎだ。お前は死にたいのか?」


 グレックは相変わらずである。新たな指導対象を手に入れただけであり、やっていることは以前と何も変わっていない。


「グレック、近頃の若いもんは褒められて伸びるもんじゃぞ?」

「バゴスさん、俺はマイのために言っているだけです。別にマイが死にたいのであれば何も言いませんよ……」


 記憶にあるがままの遣り取りにミハルは苦笑いだ。とはいえ自分の身代わりとしてマイが怒られてしまうのは忍びない。悩んだ挙げ句、ミハルはマイに助け船を出すことにした。


「グレック大尉、私が悪かったかもしれません。目標を伝えなかった場面もありましたから……」


「たった六機の未認証機相手に指示など必要ない。明らかに実力が足りん。今のままでは前衛機の邪魔になるだけだ」


 援護は敢えなく失敗に終わる。こうなると余計な真似だった気がしないでもない。グレックを苛立たせただけであって、余計な小言までマイは聞かされてしまうだろう。


 どうしたものかと考えたミハルはどうせ静まらないのならと嫌味を返すことにした。


「私は後方から激突してくるような後衛機を知ってますけど?」


 ミハルの話には全員が言葉を失う。グレックが手術する切っ掛けとなった事件は全員が知っていたのだ。さりとて隻脚となる原因まで知っている隊員たちにとって、それは絡みにくい冗談である。


 しばらくは嫌な沈黙があったのだが、

「ワハハ! グレック、これは一本取られたの。もう手打ちにしてやれ!」

 雰囲気を察したのか豪快に笑いながらバゴスが話を締めた。師弟同士の面倒な喧嘩が始まらぬようにと。


「くそ、口ばかり達者になりやがって……」


 ミハルとバゴスに言われてはグレックも引き下がるしかない。小さく嘆息し、確かに求めすぎているのかもと考え直している。


「だが、マイはもっと訓練をしろ。もし仮にゲート配備となれば生き残れないぞ?」

「分かっています。わたしだってパイロット一筋で頑張ってきたんです。もっと上手くなりたいし、人類のために戦いたい……」


 グレックは不安だった。ミハルがトップシューターになったこと。その実績によって軍部が味をしめたのではないかと。


「いずれマイも戦うことになるだろう。戦闘技術を身につける時間はあまり残されていないはずだ……」


 セントラル基地にてミハルが目覚ましい成長を遂げたことは間違いなく注目されているだろう。グレックはマイの配備がモデルケースの一つではないかと予想する。訓練所を介すことなくレーサーたちが配備された理由はミハルのような成長を期待しているからではないだろうかと。


「ミハルと同じことは求めていない。だが、持てる能力は出し切れ……」

「了解です!」


 厳しい環境がミハルを成長させたのは事実だが、実際は才能によるところが大きい。しかし、軍部がその事実を考慮しているとは思えなかった。だからこそマイが一等航宙士に昇進するや、彼女はイプシロン基地へと異動させられるのではと考えてしまう。加えて、また同じような二等航宙士がセントラル基地にやって来るのではないかと。


「それで大尉、手術の日取りは決まったんですか?」


 小言が一段落したところでミハルが聞く。彼女はグレックの入院中に隊を任されることになっていたのだ。


「いや、まだだ。長く放置していたから、複数回に分けて検査をするらしい」

「え? まだ検査があるのですか?」


「義足製作のデータ取りも併せて行うんだ。焦らせたとしてまた義足が外れちゃ敵わんだろう? 後方から激突されかねんぞ?」


 皮肉を皮肉で返されてしまいミハルは不満そうに口を尖らせる。かといってグレックの話は理解できるものだ。中途半端な義足はパイロットとして致命的。命にかかわる問題であるのだからこそ、最高の品質を求めるべきである。


「ああ、そうだ。ミハルの昇進が決まった……」


 ここで急な話題転換となる。グレックがいうにはミハルの昇進が決定したらしい。まだ二度目の大戦が終わってから一ヶ月と経っていなかったというのに。


「本当ですか?」

「今朝連絡があった。三等曹士だと聞いている。木星での戦績や先の大戦結果。あと俺の代理ではあるが隊長格とするための処置らしい……」


 三等曹士は下士官である。下士官の序列では最下位であったものの、ミハルは一般兵の括りから外れていた。隊長代理として適格ではなかったけれど、元よりハンター隊の規模は班の編成をも下回っている。下士官でも特に問題はないようだ。


「ミハルちゃん凄い! わたしより三つも上じゃないですか!?」

「マイはそのうち一等宙士になるって。六ヶ月の実地で訓練所卒と同じでしょ?」


 今思えばクェンティンが言った未来のエースに相応しい処遇とはこのことだったのだろう。一度に下士官まで引き上げられたのには少なからず派閥の問題もあったはずだ。


「ミハル三等曹士に敬礼じゃな?」

「はぁい! 敬礼っ!」

「ちょ、やめてよ!?」


 正式な辞令はまだ先であったけれど、ミハルはからかわれてしまう。戦う決意を固めた彼女だが、やはり昇進は望んでいない感じだ。


 束の間の平穏である。銀河系外にある文明との邂逅は今もなお人類の脅威であり続けていた。従って、笑い合えるような時間は何よりも貴重なものであるはずだ。

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