任務完遂
木星にあるセントグラードターミナルステーションに到着したミハル。直ぐさまセントラル基地への定期便に飛び乗っていた。
「乗り換えが五分だなんて忙しいな! これを逃すと夕方までないし……」
長旅の疲れを癒やす間もなく、ミハルは懐かしのセントラル基地まで戻ってきた。
入場ゲートでID認証し、いざ隊長室へと……。
「ミハルちゃん! こっちよ!」
ところが、ミハルを呼ぶ声がする。既に通り過ぎたオペレーションルームの前からだ。
「あれ?」
聞き慣れぬ声だった。シエラではない女性の声。セントラル基地に他の女性はいないはずなのに。
「お久しぶり! ミハルちゃん!」
それは若い黒髪の女性だった。声を聞くのは初めてだが、彼女のことをミハルは知っている。
「貴方は確か航宙機フェスティバルの……?」
「そうそう! 覚えててくれたんだ! わたしはマイ・ニシムラ二等航宙士です!」
マイはずっとジュリアだと勘違いしていた女性である。ずっと睨み付けていたから、彼女のことはよく覚えていた。
「どうしてここに?」
「ミハルちゃんがレーサー養成所の特待生を断ったから、わたしに推薦書が届いたの。まあそれで養成所に入ったんだけど、養成所で戦闘訓練の希望者を募ってて……」
マイはレーサーを辞め、戦う道を選んだらしい。ただ訓練所を卒所していない彼女はまだ見習いであるらしく、訓練生扱いである二等航宙士なのだという。
「うわ! 正義感とかでこっちに来ちゃったの!?」
「それ酷いなぁ! ミハルちゃんが軍部に進んだのを知ってたから、わたしも戦おうって思えたのよ! それにわたしは始めから正義の使者ですよ?」
二人は再会を喜び、大きな声で笑い合った。ミハルとしても同級生である彼女が同僚となるのは嬉しいサプライズである。
「おい、ミハル! だべってないで、さっさと入ってこい!」
痺れを切らせたのかグレックがオペレーションルームの扉を開く。
そこには懐かしい顔が並んでいた。たった三ヶ月だというのに胸に来るものがある。
「ホントよ! 早くミハルちゃんの笑顔が見たかったのに!」
「全くじゃの。儂らは嬢ちゃんの無事を確認しておったが、やはり本人に会って確認したいからなぁ」
グレックに続き、シエラとバゴスも通路に姿を見せる。
総勢四名。確かミハルは補充について二名だと聞かされていた。けれど、マイと同時期にやって来たパイロットは初出動のあと軍を辞めてしまったらしい。
「いやしかし、嬢ちゃんは大したもんじゃな。かなりやるじゃろうとは考えておったが、まさかトップシューターとはの……」
バゴスがミハルの偉業を称えると、シエラもまた頷いていた。
「ミハルちゃんは頑張っていたもの。マイちゃんも見習わないとね?」
「はい! ミハルちゃんは学生時代から凄かったんですよ!」
予期せぬ褒め倒しに照れ笑いのミハル。とはいえ、それもここまでだと考えていた。バゴスやシエラとは違って、最後の一人は面と向かって褒めたことがなかったのだ。
チラリと視線を送る。ミハルの視線に気付いたのか、グレックもまたミハルを真っ直ぐに見ていた。
「ミハル、良くやったな……」
思いがけぬ台詞である。それは端的な言葉でしかなかったけれど、何をしても怒られていたミハルが褒められていた。
誰に褒められるよりも一番嬉しく思う。ようやく戦闘機パイロットとして認められたような気がしていた。
「はい! 命令通り、エイリアンも301小隊も圧倒してきました!」
ミハルからの報告にグレックは満足そうだ。速報によって結果は知っていたけれど、やはり本人から話を聞きたかったらしい。
「やはり、やるからには一番でなければならん。俺も鼻が高いぞ。クェンティン大将に感謝されるなんて、今まで考えたこともなかった。アイリスを引き渡したときには嫌味を言われたもんだが……」
グレックは笑っている。弟子の二人が好対照であったこと。同じような結果を残していたにもかかわらず、まるで反応が違ったことを。
「まあ早く入れ。長旅で疲れているだろう?」
グレックに促され、ミハルは小さく頷く。すると、バゴスとシエラ、マイまでもが拍手をしてミハルの帰還を祝ってくれた。
まるで家に帰ってきたような気分だ。恥ずかしいやら嬉しいやら。ミハルは笑顔をたたえたまま照れくさそうに一歩を踏み出す。ただし、直ぐに立ち止まり、胸一杯に息を吸う。
全てを吐き出すようにして、ミハルは大きな声で全員に帰還を伝えるのだった。
ミハル・エアハルト一等航宙士、任務完遂です!――――――。
~ 第一部 完 ~
本話で第一部が完結です!
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