束の間の休息
ドック内は慌ただしかった。反物質爆弾により使えなくなったドックが多数あり、稼働中のドックへと航宙機が振り分けられていたからだ。
仮眠を取るミハルのギアが鳴った。約三十分の休憩は瞬く間に終わりを告げてしまう。
「行くか……」
ジュリアが立ち上がると、ミハルもまたそれに続いた。ギアで戦況を確認しながら、詰め所をあとにしていく。
「なあ、ミハル……」
歩きながらジュリアが声をかけた。何やら話しにくそうな表情だ。間違っても最後のひと頑張りと鼓舞する感じではなかった。
「何? 怖じ気付いたとか言わないでよね?」
「まさか! 俺が聞きたいのはこの戦闘が終わったあとのことだ……」
ジュリアは戦闘後の話を聞きたいらしい。まだカザインは撤退しておらず、自身もこれから再出撃を迎えようというのに。
「三ヶ月経てば、お前は木星に帰るのか?」
意外な話にミハルは思わず立ち止まった。すっかり忘れていたけれど、形式的にはセントラル基地からの出向となっている。ミハルはアイリス・マックイーンが戦線離脱したことによる補充パイロットに他ならない。
「そうなるんじゃない? 私は出向してるだけだから……」
「ここに残れないのか? この二ヶ月で俺は何年分も成長できた。それはお前のおかげだと思ってる。ミハルの支援機を務めることで、俺はもっと上手くなれるはず」
確かな自信が芽生え始めていた。成長の全てがミハルのおかげであるとジュリアは考えている。年齢が近いことも彼が飛びやすいと感じる理由だった。
「あんたには最高のシューターがいるじゃん? 贅沢いうもんじゃないわ」
本来なら軍部で最も優れたパイロットがジュリアのパートナーである。彼女を差し置いて、他のパイロットを望むだなんてあり得ないことだ。
「それに今ならジュリアにも支援機が務まる。もう落胆させることはないから……」
ミハルとしてもイプシロン基地を離れたくなかった。だから、誘われたのは素直に嬉しい。目標とするパイロットがいて、尚且つ親友まで配備されている。木星へ戻ることなど問われる瞬間まで頭から抜け落ちていた。
「まあ、そうだよな……」
潔く頷いたジュリア。しつこく説得するのは止めたらしい。ここで一等航宙士が議論し合ったところで人事に与える影響は少しもなく、全てが無駄話に違いないのだ。
「さあ、もう一踏ん張り! 気合い入れて行こう! 戦線をβ線まで押し上げるわよ!」
ニッとしたミハルの笑み。ジュリアもまた笑顔を作った。戦場へ戻るというのに、なぜか二人の気持ちは晴れやかだった。
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