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Solomon's Gate  作者: さかもり
第三章 死力を尽くして
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戦線後退

 航宙機部隊は司令室から命令があったように戦線を一つ下げていた。通達通りにベータ線は放棄されている。


「絶対、抜かれたくなかったのに!」


「別にお前が抜かれたわけじゃないだろ? 後退し、僚機の密度が高まったおかげで担当エリアが小さくなったんだ。ここは文句をいうより感謝すべきじゃないか?」


 諭すようなジュリアにミハルはぶぅっと拗ねたような声を出す。だが、確かに余裕は生まれている。息つく暇もなかったベータ線での戦闘に比べ、今は十分な間が取れていた。


 依然として補給通達がない301小隊。休憩どころか新たな任務が言い渡されてしまう。


「何? マッシュルーム?」

「反物質爆弾とか解せないな。それにこの機体スペック……」


 二人は戦闘を続けながら命令をチェックしている。追加された攻撃目標はコードネーム【マッシュルーム】の撃破。判明している全ての情報が開示されていた。


「DWより進入……。CSF570チェック!」


 マッシュルームを念頭に置きながらも戦闘を続けなければならない。しかし、今のところはそのようなレーダー反応など見受けられなかった。


「宙域クリア! 体勢を立て直すわよ!」

「了解!」


 アーチボルトの作戦が機能しているようだ。僚機の密度を高め、敵機を分散させる。攻め込まれた形ではあるが、非常に効果的でもあった。


「なぁ、ミハル……。エネルギー残量ってどのくらいだ?」


 ジュリアが聞いたように、補給に関する連絡は一度もなかった。まるで忘れ去れてしまったのかと勘ぐってしまうほどである。


「あと3%ね……。正直、あと幾らも戦えないと思う……」


 ジュリアの機体もミハルと同じような残量であった。交戦開始から四時間近くが過ぎ、体力的にも厳しくなってきたところだ。


「こちらセラフィム・ワン。セラフィム・ツー応答してください」


 ミハルはベイル副隊長に確認を取った。エネルギー警告灯が点灯していること。集中力を維持するのが難しくなっていることを併せて伝える。


『セラフィム・ツー了解した。君たちが先に補給させてもらえるよう上申してみる。応答があるまでしばらく待ってくれ』


「承知しました……」


 何事もなく待つだけとミハルは考えていた。ガンマ線にまで戦線を下げることにはなっていたけれど、ベータ線を維持していた頃よりも各隊の連携が強化されていたし、自分たちが抜けたところで充分に戦えるはずだと思える。


「おい、ミハル! この反応は!?」


 ところが、惰性的には終われなかった。前方に新たなレーダー反応が出現する。警告音が鳴り、ターゲットマークが点灯しているそれは明らかに攻撃目標であった。


「これが……マッシュルーム……?」


 普通の有人機よりも一回り大きな赤いマーカー。機体番号は振られず、コーションマークが表示されていた。


『こちらセラフィム・ツー! セラフィム・ワン並びにツーファイブは現状維持! 補給はマッシュルームを撃墜してからだ!』


 急な通信は慌ただしいものだった。攻撃目標が二十機同時にゲートから侵攻したらしい。航宙機部隊には必ず撃墜するようにとの命令が下っている。


「幾らでも湧いてくる! 邪魔よっ!」


 優先攻撃目標が加わったとはいえ、現存する敵機がいなくなったわけではない。宙域には依然として敵機が飛来しており、攻撃目標に集中するのは困難を極めた。


「ジュリア、あんたは前に出て航宙機の撃破! マッシュルームは私が仕留める……」


 ミハルの決断は早かった。悠長にしている時間は残されていない。


 当初、ミハルたちに向かうマッシュルームは一機だけであったものの、遅れてゲートを通過した機が同じルートを辿っている。


 二つのターゲットはミハルたちのエリアを確実に通過していくはず。猛スピードで突進するそれが急な方向転換をするとは考えられなかった。


「二機も相手に出来るのか!? ここはベイル副隊長にフォローを頼むべきだ!」


 マッシュルームの速度は凡そ戦闘機と呼べるものではない。恐らく射程に入ってから撃てるのは一発だけだろう。仮に外してしまえば照射ラグの間に突破されてしまうはずだ。また直ぐ後方に二機目が飛来していることから一発必中しかない。両方を撃墜するために撃てるビームはたった二射しかなかった。


「駄目よ……。ベイル副隊長の方にも一機向かっている。狙えないエリアなら仕方ないけど、私たちのエリアに来るのなら私たちが撃墜すべきよ」


「いやでも!?」


 ジュリアは反対だった。確実に撃墜しようとするのであれば自機をできる限り制止しておく必要がある。また角度のついた攻撃も避けるべきであり、相対した状態が望ましい。


 仮にこれらを考慮して戦うのなら、かなり危険な機動となるだろう。こうしている間にも敵機がミハルたちの隙を突いて攻め入ってくるのだから。


「うるさい! 私は一機も抜かれたくないのよっ!!」


 一喝されたジュリア。作戦は強制的に決定してしまう。それは一貫してミハルが話していたことである。困惑するジュリアだが、既にミハルは機体を下げ狙撃体勢に入っていた。


「できるのか……?」


 ジュリアはゴクリと唾を飲み込む。彼の機体は押し出されるような格好で前衛へと位置を変え、まだ何の覚悟も決まっていなかったというのに宙域に晒されていた。


「一年前、私に勝ったことは許してあげる。あんたならやれるでしょ? あまり私を失望させないでくれるかな?」


 心境を見透かしたようなミハルの声が追加的に届いた。


 年下だというのに、本当に生意気なやつだと思う。しかし、その後輩に対する信頼は決して揺るがない。勝ち気すぎる性格とは異なり、彼女のフライトには非の打ち所が少しもなかったからだ。


「ちっとは年上を敬え……」


 そんな愚痴を漏らすが、元よりチャンスをくれたミハルには何を言われたって構わない。彼女を失望させるのはジュリアとて本望ではなかった。


「やってやるよ! お前は黙って照準を覗いてろ!!」


 意を決したジュリアがスロットルを踏み込む。たとえ自身が失われようともミハルだけは守ろうと心に誓う。アイリスに救われた不甲斐ない命。生かされた事実はミハルを守り切ることでのみ意味を持つのだとジュリアは思った。


「CSF600チェック! 落ちろぉぉっ!」


 慣れぬ前衛に加えて、それを単機でこなすのだ。以前なら試すよりも前に諦めていただろう。だが、今のジュリアは違った。命を投げ出す覚悟であり、何よりも優先してミハルを守ろうと決めていたのだ。


「抜かせるかぁぁっ!!」


 気迫を前面に出し、ジュリアは正確無比な攻撃を続けた。ミハルの元へは近付かせまいと、全方位に意識を張り巡らせている。



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