ミハル、出撃
第八ドックに隣接する詰め所へと301小隊は集まっていた。
現在は待機中。交戦が始まったのは既に通知されていたが、無人機を除いた航宙機部隊はまだ配置についていない。そわそわと詰め所を彷徨く者や無意味な雑談をする者。緊張を和らげる術は様々であったけれど、そんな中ミハルは椅子に座って音楽を聴いていた。
「戦闘配備命令だ! 出撃するぞ!」
ベイル副隊長の号令が詰め所に木霊する。まだ交戦が始まって五分足らず。有人機部隊の最前列を守護する301小隊はいの一番での出撃となった。
「おい、ミハル。出撃らしいぞ」
ジュリアが声をかけると、彼女は言葉もなくギアを操作し音楽を止めた。スッと立ち上がり、パイロットスーツを首元まで締める。
徐に歩き出したミハルは、ようやくとジュリアに視線を合わせた。
「始まるのね……?」
「ああ、必ず勝とう……」
自分でも不思議に思うほど、ミハルは落ち着いていた。数ヶ月前は再三にわたって落ち着けと怒られていたというのに、出撃命令が下った今はどうしてか感情の昂ぶりがない。
中央ブロックでの戦闘はシミュレーターにて何度も経験している。前回を遥かに超える大戦が予想されていたけれど、ミハルの心は強くあるままだ。技術面に加えて精神面や身体面も完全な状態に仕上がっていた。
「戦おう……。私は戦闘機パイロットなんだ……」
ミハルは軍人であり、戦闘機パイロットである。否応なしに戦場へと飛び立つ立場だ。
しかし、逃げだそうとは思わなかった。長らく抱えた個人的な目標だけでなく、この戦争が意味するところを彼女なりに考えたからだ。戦える者が戦わないことには平穏など得られない。戦って勝つしか人類に未来はないのだと。
戦闘機パイロットである自覚はただ彼女に前を向かせた。カザインが侵攻してくるならば全てを撃墜するだけ。戦闘機パイロットはトリガーを引くだけだ。
一番後に詰め所を出ていく。ミハルは口元を結び、もう一度決意を口にした。
「戦うために、ここまで来たんだ――――」
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