似たもの同士
一週間が過ぎていた。誰も口にしなかったが、次戦の予感を覚えている。いつ始まったとしても動揺しないように各員が覚悟を決めていた。
ミハルはアイリスの病室を訪れている。かといって見舞いとかではない。アイリスに呼び出されてしまっては無視できなかっただけだ。
「悪いな……。このような見舞いの品まで持参するとは背丈と同じで可愛い奴だ!」
「身長のことはほっといてください! それで要件は何ですか? これでも私は忙しいんです!」
相変わらずそりの合わない二人。早くもミハルは顔をしかめていた。
「あれから一週間が経ったからな。近況を聞こうと思ったのだ。訓練の内容は常に報告を受けているが……」
アイリスの要件はミハルの近況であるようだ。だが、ミハルの調子ならば報告を受けているから聞くまでもないはず。ならばとミハルは質問の真意を汲み取っている。
「時間がかかりそうです。根本的に私とはフライトの方向性が違うんじゃないかと……」
「すまない……。あいつは決められた通りに飛ぶのは得意なんだが、どうにも発想力が乏しい。貴様と対極にいるようなパイロットだ。まあしかし、あいつを301小隊に引き留めてくれたことには感謝しかない」
二人が話しているのはジュリアのことらしい。やはりアイリスも姉であった。自身が戦列を離れた今、隊での居場所がなくなってしまうことを危惧していたようだ。
「高望みはしていないんですけど、どうにもタイミングがずれてもどかしいです」
言葉は濁したが、ミハルは割と限界を感じていた。自由に飛ぶことを許さない支援機に疲れすら覚えている。
「だとしたらミハルが合わせてくれないか? ジュリアの支援を先読みし、機動を組み立てていくのだ」
「それ本気で言ってます? 私は貴方の記録を抜こうと頑張ってる。余計な機動は足かせでしかありません!」
ミハルは強く拒否を示した。だが、アイリスは不敵な笑みを浮かべている。どうにも嫌な予感がしてならない。
「先の戦闘で私がジュリアに合わせて飛んでいたとしてもか? 貴様は自由に飛び回り、私はハンデを負いながら戦った。果たしてその二つの結果は平等だろうか……?」
流石にカチンときてしまう。売られた喧嘩は買う性分である。ミハルの気の強さはアイリスにだって引けを取らない。
「そういうことでしたら分かりましたよ! ジュリアまでフォローして飛びます! それでも私が勝っていたら、言い訳しないでくださいよ!?」
「勿論だよ! 可愛い妹弟子の戦果にケチを付けるつもりはない!」
良いように言いくるめられてしまうミハル。鼻息荒くアイリスを睨んでいる。
ところが、そんな眼差しを避けるようにしてアイリスは視線を下げた。
「ジュリアは切っ掛けさえ掴めれば伸びるはずだ。あいつは殻を破れないだけ。私の影を追い続けた結果、自身のフライトを見失っている。エースの器ではないにしても、決して貴様を落胆させるようなパイロットではない。それに私はこれでもジュリアの姉なんだ。私が弟を信じなくてどうする? 最後のチャンスがミハルなのだよ……」
至って真面目にアイリスは語る。姉馬鹿であるのかジュリアの才能について言い訳を並べ、最後は押し付けるようにミハルへと託すのだった。
「その優しさを私も欲しかったものですね!」
ミハルの何気ない返答。なぜかアイリスは頭の中をまさぐられたような気がしている。
その台詞は記憶に埋もれていた。どうにも信じられない話を聞いたあとのことだ。
.
『ミハルはアイリスと似ているな。性格までそっくりだよ――――』
かつての師はミハルとの共通点をそのように話していた。思い出した記憶を辿れば少しも否定できない。アイリス自身も同じような台詞をグレックに返していたのだから。
一瞬、呆けたあとアイリスはククッと笑う。何だかとてもおかしくて、声を上げずにはいられなかった。
「貴様は図に乗るから駄目だ!」
脈絡も考えず、自身が言われたままをミハルに返した。当然のことミハルは不満そう。そんな彼女の反応まで自分を見ているかのようである。
アイリスは笑みを零した。似ているといわれた時には複雑な心境であったけれど、ミハルを前に思い返してみると、沸き立つ気持ちは期待感しかなかった。
「私に似ているのならやって見せろ! 貴様は宙域の王者となれ! カザインを蹂躙してやるんだ! このアイリス・マックイーンを超えて見せろ!」
細かな指示はなく、とても大局的な話が続けられた。
ミハルはただ頷く。言い付かった内容は簡単に了承できるものではない。けれど、彼女は前へと進む。首を振るなんて時間は残されていなかった。
本作はネット小説大賞に応募中です!
気に入ってもらえましたら、ブックマークと★評価いただけますと嬉しいです!
どうぞよろしくお願いいたしますm(_ _)m




