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Solomon's Gate  作者: さかもり
第三章 死力を尽くして
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似たもの同士

 一週間が過ぎていた。誰も口にしなかったが、次戦の予感を覚えている。いつ始まったとしても動揺しないように各員が覚悟を決めていた。


 ミハルはアイリスの病室を訪れている。かといって見舞いとかではない。アイリスに呼び出されてしまっては無視できなかっただけだ。


「悪いな……。このような見舞いの品まで持参するとは背丈と同じで可愛い奴だ!」


「身長のことはほっといてください! それで要件は何ですか? これでも私は忙しいんです!」


 相変わらずそりの合わない二人。早くもミハルは顔をしかめていた。


「あれから一週間が経ったからな。近況を聞こうと思ったのだ。訓練の内容は常に報告を受けているが……」


 アイリスの要件はミハルの近況であるようだ。だが、ミハルの調子ならば報告を受けているから聞くまでもないはず。ならばとミハルは質問の真意を汲み取っている。


「時間がかかりそうです。根本的に私とはフライトの方向性が違うんじゃないかと……」


「すまない……。あいつは決められた通りに飛ぶのは得意なんだが、どうにも発想力が乏しい。貴様と対極にいるようなパイロットだ。まあしかし、あいつを301小隊に引き留めてくれたことには感謝しかない」


 二人が話しているのはジュリアのことらしい。やはりアイリスも姉であった。自身が戦列を離れた今、隊での居場所がなくなってしまうことを危惧していたようだ。


「高望みはしていないんですけど、どうにもタイミングがずれてもどかしいです」


 言葉は濁したが、ミハルは割と限界を感じていた。自由に飛ぶことを許さない支援機に疲れすら覚えている。


「だとしたらミハルが合わせてくれないか? ジュリアの支援を先読みし、機動を組み立てていくのだ」


「それ本気で言ってます? 私は貴方の記録を抜こうと頑張ってる。余計な機動は足かせでしかありません!」


 ミハルは強く拒否を示した。だが、アイリスは不敵な笑みを浮かべている。どうにも嫌な予感がしてならない。


「先の戦闘で私がジュリアに合わせて飛んでいたとしてもか? 貴様は自由に飛び回り、私はハンデを負いながら戦った。果たしてその二つの結果は平等だろうか……?」


 流石にカチンときてしまう。売られた喧嘩は買う性分である。ミハルの気の強さはアイリスにだって引けを取らない。


「そういうことでしたら分かりましたよ! ジュリアまでフォローして飛びます! それでも私が勝っていたら、言い訳しないでくださいよ!?」


「勿論だよ! 可愛い妹弟子の戦果にケチを付けるつもりはない!」


 良いように言いくるめられてしまうミハル。鼻息荒くアイリスを睨んでいる。

 ところが、そんな眼差しを避けるようにしてアイリスは視線を下げた。


「ジュリアは切っ掛けさえ掴めれば伸びるはずだ。あいつは殻を破れないだけ。私の影を追い続けた結果、自身のフライトを見失っている。エースの器ではないにしても、決して貴様を落胆させるようなパイロットではない。それに私はこれでもジュリアの姉なんだ。私が弟を信じなくてどうする? 最後のチャンスがミハルなのだよ……」


 至って真面目にアイリスは語る。姉馬鹿であるのかジュリアの才能について言い訳を並べ、最後は押し付けるようにミハルへと託すのだった。


「その優しさを私も欲しかったものですね!」


 ミハルの何気ない返答。なぜかアイリスは頭の中をまさぐられたような気がしている。

 その台詞は記憶に埋もれていた。どうにも信じられない話を聞いたあとのことだ。

.

『ミハルはアイリスと似ているな。性格までそっくりだよ――――』


 かつての師はミハルとの共通点をそのように話していた。思い出した記憶を辿れば少しも否定できない。アイリス自身も同じような台詞をグレックに返していたのだから。


 一瞬、呆けたあとアイリスはククッと笑う。何だかとてもおかしくて、声を上げずにはいられなかった。


「貴様は図に乗るから駄目だ!」


 脈絡も考えず、自身が言われたままをミハルに返した。当然のことミハルは不満そう。そんな彼女の反応まで自分を見ているかのようである。


 アイリスは笑みを零した。似ているといわれた時には複雑な心境であったけれど、ミハルを前に思い返してみると、沸き立つ気持ちは期待感しかなかった。


「私に似ているのならやって見せろ! 貴様は宙域の王者となれ! カザインを蹂躙してやるんだ! このアイリス・マックイーンを超えて見せろ!」


 細かな指示はなく、とても大局的な話が続けられた。


 ミハルはただ頷く。言い付かった内容は簡単に了承できるものではない。けれど、彼女は前へと進む。首を振るなんて時間は残されていなかった。



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