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Solomon's Gate  作者: さかもり
第一章 航宙士学校
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銀河連合GUNS

 約千年前。地球の衛星軌道上にユニックⅠの建造が始まった頃、世界政府であったオールコンチネンタルユニオンは名称を改めた。


 Galaxy United NationS。現在の宇宙政府ともいえる銀河連合GUNSはこの時より発足していた。


 太陽系の秩序たるGUNSは宇宙の全権を任されている。各エリアの代表者が集まり、尚かつ選挙で総長を選ぶ。まるで太陽系全体が一つの国家であるかのよう。


 現在の統轄本部は木星圏にあったものの、本日は土星圏に浮かぶ研究施設へと各代表者たちが集結していた。総長であるデミトリー・レオポルドもその一人である。


「総長並びに議員の皆様、本日は遠いところ土星までお越し頂き有り難うございます」


 施設責任者であるマルコが挨拶をした。サターンラボは土星の環境調査をメインに様々な研究を行っている施設である。


「マルコ主席研究員、今日は宜しく頼む。専門家として忌憚ない意見を聞かせて欲しい」


 土星圏は未開拓の宙域である。GUNSの研究施設が幾つか浮かんでいるだけで、民間人は住んでいなかった。


「ここはとても素晴らしい場所ですよ。土星の神々しい姿は勿論のこと、多種多様な衛星など注目すべき物がたくさんございます」


「確かに土星の存在感は他を圧倒しているな。懸念であったシャトルライナーも無事に開通したことだし、本格的な開発を始める時期かもしれない」


 別に木星圏が手狭になったという事実はない。けれど、人類はどん欲だった。まるでその存在を誇示するかのように銀河の開拓を続けている。


「土星圏は観光にも定住にも適しております。是非ともご一考していただければと……」


 シャトルライナーは公転周期により旅程が大幅に異なってしまう欠点があるものの、ルート計算は既に完了しており、如何なる周期の場合も航行することができた。


 マルコが語るように土星圏は新たな開発地として相応しい。五十を優に超える衛星があり、多様な資源が補給できる。加えて、エネルギー自体も土星を活用できたのだ。


「本日は土星のエネルギー事情について説明させていただきます」


 言ってマルコは資料を全員に手渡す。

 一行は開発審査団とされていたが、実をいうと反対派などいない。この視察は形式的なものであり、視察の実績が残ればそれだけで良かった。


「基本的なエネルギーは重力発電にて賄います」

「それでは不足しませんか? もっと高効率な方法はなかったのでしょうか?」


 火星圏代表のモルガン議員が早速と口を挟む。

 エネルギー問題は常に人類の課題だった。食料や水は難なく作り出せたものの、それらを作るのにも何をするのにもエネルギーが必須。よって安定的なエネルギー供給は何よりも先だって考えられることだ。


「コア熱の利用はやはりコストとの兼ね合いで難しいですね。現時点では重力と太陽光による発電を推奨します。安全面やコスト面を考慮すると重力発電の比重を高くするべきでしょうね」


 重力発電は同じガス惑星である木星でも有効的な発電方法である。重力圏へ質量を投下するだけであったので、建設が容易であると同時に安全面やコスト面でも優秀だった。


「新設計されたグラビティジェネレーターシステムを実際に見ていただきましょうか」


 マルコがモニターのスイッチを入れると土星の様子が映し出された。小さく浮かんでいる幾つもの物体がグラビティジェネレーターシステムであるらしい。


「では、始めます!」


 小さな建造物から飛び出す無数の物体。隕石のように飛び出し、それは長い尾を引いた。


「一つのアンカーで木星と同じく千キロ発電できます。発電効率は従来のジェネレーターと比べ十倍と非常に強力です」


 グングンと伸びていく発電メーターに参加者たちは感嘆の声を上げた。


 アンカーとは重力に引かれて落ちていくだけのおもりである。アンカーには速硬化性の液化樹脂が付着され、射出されると同時に硬化しながら糸を引く仕組みだ。その糸は発電機の始動線となり、アンカーが落ちていく千キロの間は発電し続ける。また千キロが過ぎればアンカーは発電機から切り離され、始動線ごと土星へと落下していく。巻き上げや回収の必要はなかった。


 好反応にマルコは笑みを浮かべる。研究費用の増額を希望していた彼は今回の視察訪問を是非とも成功させたいと考えていたのだ。開発業務は専門外であったものの、視察にあわせて完璧な準備を済ませていたのである。


「大変です! マルコ主席!!」


 ところが、視察は思わぬ形で中断されてしまう。どうやら問題が発生したらしい。


「どうした? 故障か?」

「ジェネレーターシステムに異常はありません。ですが……」


 眉根を寄せるマルコ。この場面で最も困る状況は故障であるはず。よって異常なしと答えたオペレーターが取り乱す理由は分からなかった。


「土星の質量が急激に失われています!!」


 続けられた突拍子もない報告にマルコは絶句する。何とか言葉を絞り出そうとするも、冗談としか思えない話に指示など出せるはずもなかった。


「質量40%……いや、20%にまで減少!」

「あり得んだろう!? 予備のセンサーに切り替えろ!」


 非現実的な報告にマルコはセンサーの異常を疑う。しかしながら、それは適切な指示ではなかった。何しろモニターへ映し出される土星は目に見えて縮小していたのだから。


「ジェネレーターシステム緊急停止だ!」


 遂にはデモンストレーションの中止を命令する。だが、時すでに遅し。土星は爆縮し、もう視認できない。何が起こったのかも掴めぬまま、土星はその姿を消した。


「ど……土星……完全に消失しました……」


 為す術なく土星は消失。残された輪っかが、ただ儚くモニターに映っていた。


 これはデモンストレーションであったはずだ。巨大なガス惑星がアンカーを撃ち込んだだけで消失するなんて、素人であっても冗談としか思わないだろう。


「重力場消失! 揺れますっ!」


 その刹那、研究施設に警報が鳴り響く。立っていられないほどの激しい揺れに襲われた。


「姿勢制御急げ! 被害報告!」


 土星の衛星軌道に乗っていた全ての存在は紐が外された風船のよう。

 かつては、その象徴だった環でさえも追い散らされた羽虫のごとく、ゆっくりと拡がるようにして離れていく。土星という足枷はもうなくなったのだ。


 研究所は直ぐさま姿勢制御をし事なきを得た。けれど、先ほどまであれほど浮かれていた面々は表情をなくし、言葉すらなくしている……。

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