エース部隊の実状
翌朝、キャロルと朝食を取ったミハルは301小隊の詰め所を訪れていた。
ただ隊員たちの姿はなく、詰め所には副隊長のベイル准尉しかいない。
「ああ、ミハル一等航宙士だね。話は聞いている……」
ふとクェンティン司令の話が頭をよぎった。配備について一悶着あったことはミハルも理解していたけれど、やはり迎える側のベイルに笑顔はない。
「よろしく……お願いします……」
確か承認の連名に彼の名もあったはず。しかし、どう見てもベイルは歓迎しているとは思えない。どちらかと言えば邪魔者のような目でミハルを見ていた。
「君はクェンティン司令と知り合いなのか?」
ベイルがそんな話を続ける。先ほどから訝しむような目で見ていた彼は何か勘ぐっているのかもしれない。
「いえ、クェンティン司令とは基地で初めてお会いしましたけど……」
「そうか……。ならいい……。まだ私は君がどういうパイロットなのかも聞かされていないんだ。全てが決定した後に私はサインを強要されただけ。仮にも我々はエース部隊と呼ばれている。ここはパイロットを育成する場ではないのだ。本来ならルーキーを迎え入れる余裕などない……」
キツい言葉が向けられたけれど、嘆きたくなる気持ちも理解できた。ミハル自身も困惑する出向であったのだ。現場を任される者からすれば、何の罰かと思えただろう。
「突然に出向を言い渡されました。希望を出していたわけではありません」
「ああ、すまない……。君が悪いわけではないな。無理を押し付ける司令部に腹を立てていたんだ。謝罪させてもらう……」
まるで心がこもっていなかった。その内容とは裏腹にベイルは不機嫌そのもの。全ての元凶がミハルであるかのように見つめていた。
「それで私はどうすれば良いのですか……?」
指示がなかったから、ミハルから尋ねた。正直にいって、やる気を削ぐような副隊長には従いたくもなかったが、配属先がここだというのだから仕方がない。
「まずは機体の設定をしてくれ。君には一番機が宛てがわれている――――」
それは思わず聞き返しそうになる話だった。ミハルは耳を疑っている。
聞こえたのは確かに一番機だ。もしも事実であれば、宛がわれたのはアイリスが使用していた機体番号に他ならない。
小隊は二十五機編成。一番機は慣例的に隊長機が付ける番号である。機体番号は通しであって、基本的には能力順に付けられていく。
「本当ですか……?」
「驚くのも無理はない。私だって困惑している。アイリス隊長はなぜか君を一番機に据えた。空いた番号にそのまま入れただけだと隊長はいうが、そんなに軽い話じゃないんだ。3SP01という機体番号は他の小隊を混乱させてしまうし、何より今まで頑張ってきた隊員たちに示しがつかない。隊長が何を考えているのか、私にはさっぱり分からないよ……」
嘆息するベイルは両手を拡げて呆れたようなポーズ。色々と進言したようだが、まるで取り合ってもらえなかったらしい。
ミハルはベイルの心情を汲み取っている。彼はルーキーの配備を司令部から押し付けられただけでなく、ルーキーに一番機を与えると隊長から通達されてしまったのだ。完全に板挟みとなった彼がミハルを歓待できるはずもなかった。
「この銀河に君臨する熾天使は君に微笑んだ。ただし、隊員たちを納得させられるかどうかは君次第だろう。既に隊員たちからは不満が噴出している。セラフィムの名に恥じないフライトを君が見せなければ、301小隊は内部崩壊してしまうかもしれない……」
301小隊のコードは【セラフィム】。麗しい天使が全機に描かれていた。全宇宙の頂点に羽ばたく最高位の天使こそがアイリス・マックイーンであり、一番機はその象徴であった。
「一番機って隊には副隊長がいらっしゃるじゃありませんか?」
「私は二番機だ。先の戦いと変わらない。もしも君が重圧に感じ、とても背負えないというのなら君が直接アイリス隊長を説得してくれ。私が何を言っても無駄なんだよ……」
苦々しい顔をしてベイルは溜め息をついた。ミハルが一番機に乗ることを最後まで反対したのだろう。彼の表情から、そんな状況が容易に推し量れた。
「アイリス中尉の病室はどこにあるのでしょう?」
別に隊内の軋轢を気にしたわけではない。どちらかと言えば被害者だと思う。しかし、ミハルは聞かずにいられなかった。
「賢明な判断をしてくれて助かる。君が拒否すれば全てが丸く収まるんだ。午前中の定時訓練は免除しよう。だが、午後には顔を出してくれ。あと病棟へ行く前にセッティングカードを整備士まで渡しておくように……」
病室を聞いたミハルは詰め所をあとにしていく。ただミハルはぴたりと扉の前で立ち止まり、ニコリと微笑み振り返った。
「アイリス中尉に好待遇の謝意を伝えてきます――――」
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