開戦
GUNSソロモンズゲート支部イプシロン基地ではゲートの監視を強化していた。
人類史上かつてない大戦を目前に控え緊張が高まっている。人類から攻め入る予定はなかったものの、もはや開戦は時間の問題だった。
イプシロン基地にはデミトリー総長の姿がある。彼は人類の未来を見届ける覚悟を決めていた。万が一の場合には副総長へと全権を委任するよう準備し、数日前よりイプシロン基地に滞在している。
「緊張状態が続くな……」
「どうせ開戦するのであれば兵士たちの緊張が切れる前にして欲しいところです」
デミトリーの独り言にも似た話に司令官であるクェンティン大将が返した。
敵軍の偵察機は全て撃墜している。人類は手の内を殆ど見せていない。カザインがゲートから侵攻したとしても撃退できると信じていた。
「ゲートに熱源反応です! 来ますっ!!」
にわかに戦況が動き出した。穏やかだったゲートが太陽光を受けたように輝くと一筋のビーム砲が突き抜けていく。それは瞬く間にダミー戦艦を撃ち抜いて、銀河の果てまで届くかのような長い光の尾を引いた。
まるで開戦の狼煙である。両軍共が覚悟を決められたはずだ。
「遂に始まるのか……」
人類として避けたかったはずの銀河間戦争が始まってしまった。デミトリーは過度に緊張している。
「全軍第一戦闘配備! 侵略者共を追い返せっ!」
クェンティン司令の号令が轟く。重イオン荷電粒子砲が起動に入り、戦闘機も宙域へと射出された。各々が通達済みの作戦行動を迅速にこなしている。
「物体複数観測しました! 小型機多数! 座標転送します!」
即時にデータベースへ反映され、末端の戦闘機までもが出現ポイントを確認する。
「ロックオン完了! 迎撃します!」
GUNSのシナリオ通りに進んでいた。第一陣である航宙機は出現と同時にロックオンされ全てが撃墜されている。
「百機撃破! 続いて来ます! 大型……複数! 艦隊です!」
続いて艦船が進入。しかし、ここも即座に座標が転送され、ゲートN面に配置された戦艦や重イオン砲からの一斉砲火を浴びせた。流石に全艦の撃沈とはならなかったものの、通過した艦もほぼ全てが大破状態となっている。
「戦闘機が射出されました!」
「迎撃しろ! 一機残らず撃墜するのだ!」
戦闘機には戦闘機。直ちに航宙機部隊が迎撃へと向かう。
どの部隊も上手く機能していた。ここまでの戦果は想定以上であったに違いない。
「総長、シミュレーション通りに進んでいます。我々の力を見せつけてやりましょう!」
「油断は禁物だぞ? まだ何かを隠しているやもしれん……」
ゲートには次々と新手の戦艦が現れている。重イオン荷電粒子砲や数多の砲台、加えて艦隊からの一斉射撃によってそれらを撃沈していく。しかし、次第に通過を許すようにもなっていた。
「砲撃を続けろ! 機雷の射出急げ! β線に達した敵機は第三、第四戦団が駆逐! 第七戦団以下は待機だ!」
クェンティンの指示は的確だった。それは綿密に練られた作戦通りである。
指揮官もさることながら、部下たちもミスなく働く。誰もが人類の未来を信じており、その為に行動していた。
「航宙機部隊はもっとエリアを意識しろ! 深追いはするな!!」
役割分担を細部まで詰めていた。戦力分布にムラをなくし、同士討ちを避ける意味合いがある。従って利己的な深追いは隊というより作戦自体に迷惑をかけることになった。
「二十番母艦より航宙機隊発進! [βE1・F1]へと入れ! 到着次第、四四三番隊と交代せよ!」
消耗の激しい部隊から順に交代していく。長期戦への対策も万全である。
「損害報告急げ! 各種伝達は迅速且つ正確にこなすんだ!」
ここまでの被害は考えられていたものよりも少ない。想定よりゲートの特性が上手く機能したようだ。逆にそれはカザイン光皇連にとって誤算であっただろう。彼らもゲートの仕組みはある程度理解していたはずだが、ゲートを潜る際のちょっとしたラグが防衛側に有利すぎた。発見からゲートを通過するまでの間に多くがロックオンされて、大多数が宇宙の塵と化したのだ……。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
戦闘開始から四時間が経過。ゲートから現れる新手の姿はなくなっていた。宙域に残るカザイン機も数を減らし、素人目にもGUNSが優勢であると分かるほどだ。
「クェンティン大将……?」
「ご心配なく。我々の勝利は目前です。ただ気がかりなのは想定よりも随分と数が少なかったこと。我々を過小評価した結果なのか、或いは偵察の延長であったとも考えられます。いずれにせよ全戦力の一割に満たないのは確実です。本当の戦力を注ぐのは次、若しくはそのまた次の戦闘。決めに来る戦闘が必ずあると推測されます」
以降の予測を交えながらクェンティンが答えた。
既に敵艦は全てが足を止めている。戦闘としては残存敵航宙機の殲滅を残すだけとなった。初陣を勝利するだけでなく被害は最小限。自軍の士気が向上するのは間違いないことだろう。クェンティンは大勝利を確信して、小さく笑みを浮かべていた。
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