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Solomon's Gate  作者: さかもり
最終章 未来へ
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Epilogue

 ミハルが退役をして一年が過ぎていた。

 アイリスと共にレーサー養成所の門を叩き、好成績を収めて卒所している。


 本日、セントグラードレース競技場は十万人を超える観衆が詰めかけていた。しかも朝一番という段階で入場制限がかかっている。


「ミハル、何だこの花は? 嫌な記憶が蘇るじゃないか?」


 青いレーシングスーツに身を包んだアイリスが言った。

 彼女が指さす先はミハルの控え室であり、様々なスポンサーや知人からデビュー記念の花が贈られている。


 もっともアイリスが嫌悪感を示したのには理由が存在した。なぜなら一際豪華な二つの花にクェンティンとアーチボルトの名があったからだ。


「約束を守ってくれただけですよ。アイリスさんには贈られていないのですか?」


「あるわけないだろうが? 私はこの才能を妬まれていたからな……」


「そういうこと言うから……」


 ミハルにはセントラル基地の面々からも贈られていたし、何なら全然知らないメーカーまでもが彼女に花を贈っていた。


「ま、期待されたミハルが負けて、泣きべそかくのも一興だろう」


 実をいうと第一レースでデビューするのはミハルだけではない。新人戦は三レース組まれていたけれど、抽選の結果アイリスもまた第一レースであったのだ。


「言っておきますが勝つのは私です! アイリスさんは未勝利戦に挑む準備でもしてください!」


「訓練所の卒所レースで惨敗したのを忘れたのか?」


「大外だっただけですって! 最内枠引いて粋がってんじゃないですよ!」


 訓練所でのレース結果は五分。常に枠順が勝負を決定付けていた。近い枠を引いた場合は本当に接戦を繰り返し、今に至っている。


「しかし、デビュー戦でミハルと戦えるのは熱い展開じゃないか? マックイーン姉妹の姉が勝ち、妹が涙ながらに未勝利戦へと。そこで私は表彰台で妹の手を高々と掲げるのだ。勝者は私だが、妹の健闘を観衆に伝えるために……」


「まぁだ言ってんですか、それ……」


 ミハルとしてもアイリスとの勝負は楽しみであった。デビュー戦以外で出会う確率は限りなく低かったからだ。二人共が賞金を重ねて、グレードレースへと進むと頻繁に出会うはずだが、それまでは競技場すら一緒になる機会は少ない。


「あっ! 実況が聞こえてきましたよ! ドックに向かいましょう!」


「ああ、実に楽しみだ。軍部を辞めて正解だったな!」


 二人して控え室を出て行くと実況放送が地下の通路にまで聞こえている。第一レースであるというのに、それはもうテンション高めの放送であった。


『第一レースはセントラルエリアの新人戦です! 既に札止めとなっており、今以上の入場はできません。解説のウチムラさんはミハル・エアハルト選手のレースを直に見られたことがあるのですよね?』


『ええ、今回のオファーは即座に了承しました。一ヶ月も前乗りして木星に来ています。綿密な取材を行いましたのでお楽しみに。実はミハル選手の大ファンでしてね。予想は大本命。機券は全てミハル選手からです!』


 どうやら地球での解説者がゲストとして呼ばれているらしい。アイリスもいたというのに、ウチムラはミハルに本命を打ったという。


『なるほど、対抗となるのは同期のアイリス・マックイーン選手でしょうか? 彼女もまたGUNSのトップパイロットでしたけれど、年齢は二十九歳と新人では最高齢となっております』


 思わぬ実況にアイリスは顔を顰めた。妙齢であるというのに、実年齢を公表した実況に怒り心頭といった様子。


「ぷっ、最高齢だって! お姉ちゃんは年増だね?」


「うるさいぞ! あんのクソ実況め。こうなったら絶対にトップを取って、賛辞を並べさせてやるからな! 覚悟しろミハル!」


「望むところです!」


 このあと二人はプラクティス周回を済ませて、発進の時を待つ。


 人気はまったくの五分。五号機のアイリスと六号機のミハルは両機共に1.1倍と最低オッズとなっている。


『さあ、いよいよレースが始まります! 果たして勝つのは五号機のアイリス・マックイーンか、はたまた六号機のミハル・エアハルトか!? 奇しくも銀河連合軍でトップシューターを争った二人が、第一レースにてマッチアップです!』


 短めのファンファーレのあと、レッドシグナルが灯っていく。


 ミハルは最高に集中していた。絶対に勝つのだと。


 思えば三年以上も前、ミハルはこのセントグラードレース競技場で負けたのだ。

 全てが始まったこの地で勝利を収めること。新たな人生のスタートとして相応しいと思う。


『グリーンシグナル! 各機、好スタート! フライングはありません!』


 当時と同じように、ミハルの機体はロケットのように撃ち出されていく。

 スロットルを目一杯まで踏み込む彼女はライバルに競り勝つことしか考えていない。

 かつて惨敗した記憶。ミハルは脳裏から掻き消すかのように、当時と同じような負けん気を露わにするのだった。



「勝つのは私よ!!――――」





 Solomon’s Gate ~ FIN ~

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