日常へと
皇都レブナから艦船に乗り、ミハルたちは再びイプシロン基地へと戻っている。
まだシャトルライナーでの移動が残っていたけれど、長く住んだイプシロン基地には実家のような安心感があった。
「やっと戻ってきたね!」
「ミハル様々だよ。あたしまで戻ってこられるなんて。思えば配属時にセントラル基地を希望したのに、あたしはここへ来たんだよね……」
キャロルは感慨深げに言った。
妙な噂を聞いた彼女はゲートへの配備を嫌がり、地元であるセントラル基地を希望していたのだ。
「ああ、それね。羨ましかったなぁ」
「あんただけよ。そんなこと言うのは……」
キャロルは薄い目をしてミハルを見ている。同期の誰もイプシロン基地を希望していないというのに、希望していたミハルだけがセントラル基地だなんて。
「あれって希望は叶えないようになってるんじゃない?」
「どうだろうね? ま、聞く限り、セントラル基地は本当に危なかったんでしょ。即戦力を求めていたからミハルが選ばれただけ。あの頃のあたしたちだったら、何人も配備しなきゃ役に立たなかっただろうし」
「ほう、ならば今は役に立つと?」
ミハルはニヤリとした顔でキャロルを見ている。
しかし、別にキャロルは腹を立てない。今や確固たる自信があったからだ。
「もちろんよ。実はセンスがあるのかもしれないと、あたしは思うのよね?」
ジョークのように話すキャロルをミハルは笑っている。
しかしながら、全てが冗談というわけではない。キャロルは最終戦の途中から前衛機を買って出ており、それなりの戦果を上げていたのだから。
「さっすがキャロル宙士長! よっ、宙士長!」
「ミハルに言われてもつまらないわ。まだ一等航宙士の同期とかいないかしらね?」
「セントラルにいるよ! 学校は違うけど、マイって子がいるの。大戦に参加してないから昇進はしていないと思うよ」
「ああ、あの子ね。同じ部隊ならいいのに。ゲート帰りのパイロットとしてマウント取りたいわぁ」
再び笑い合う二人。マイには気の毒だったけれど、キャロルは先輩面したいようなので我慢してもらうことに。
「それで、マッシュルーム宙士長はいつまで軍部に?」
「それ言わない! マイって子には絶対言わないでよね?」
ミハルはあとでメッセージを送っておこうと思う。密かに伝えることで面白くなりそうだと。
「んで、軍部にはあと二年かな。超弩級ライセンスを取って退役。ゲート帰りのツーリストとして活躍しちゃうんだから?」
「はぁ、良い就職先があるといいね? でも聞いたことないなぁ」
平和な世界。戦いのない世界が始まる。まだ若い二人の未来は光り輝いていた。
だからこそ、ミハルはからかうように言う。冗談を口にして怒らせたとしても、少しですら問題はないのだと。
「キノコ狩り専門のツアコンなんてさ――――」




