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Solomon's Gate  作者: さかもり
最終章 未来へ
224/226

最終日

 GUNS主導による新政府が立ち上がって一ヶ月が経過していた。


 残念ながら、ゼクスの生存者は電力供給のあるエリアだけであって、ライフラインが絶たれたエリアからは死体が見つかるだけである。


 現状は電力網を整備しているところであり、この星を再び蘇らせる計画が始まっていた。


 ミハルは皇都で生活している。警戒飛行の他、ゼクスでの捜索にも参加したりと忙しい毎日だ。本日は久しぶりにクェンティンに呼び出され、新政府の一室へと来ていた。


「えっと、何の御用でしょうか?」


 呼び出された理由がさっぱり分からない。もう既に大きな計画はないし、ミハルは退役を申し出ているからだ。


「身構える必要はないぞ。昨日、ようやく治安維持に従事する部隊が到着したのでな。先にお別れをしておこうというだけだ」


「えっ?」


 唖然としてしまう。お別れということはレブナを去るということだ。それは軍部からの除籍に他ならない。


「今日……ですか?」


「ああいや、明日だ。到着した艦船に退役する人員と移動する人員を乗せて運ぶ予定となっている。君の親友も船に乗れるよう手配した」


 意外な話が続く。キャロルの去就については詳しく聞いていたのだ。


「え? キャロルは軍部に残るって話していましたよ?」


「早い話が異動となった。セントラル基地配備になるな。本日中には辞令がギアに届くだろう」


 一緒に帰ることができるのなら、長旅も楽しく過ごせそう。ずっとアイリスの相手をするのでは疲れてしまうはずだと。


「ありがとうございます!」


「いやいや、礼を言うのは我々だ。君がいなければ軍部は今ある成果を残せなかっただろう。あの偏屈に頼るしかないなんて、悪夢でしかないからな。ミハル君がエースとして頑張ってくれたおかげで、必要以上に頭を下げずに済んだよ」


 それはクェンティンの冗談に違いないだろうが、割と本心も含まれている。アイリスしか頼れるパイロットがいないのなら、間違いなくアイリスは今以上の態度を取っていただろう。


「クェンティン司令だけでなく、アーチボルト准将にも感謝しています。地球まで付き添いしていただきましたし」


「ミハルさん、実をいうと私もまた木星に戻ります。この年で恥ずかしいのですが、少将に昇進しましてね」


 軍部内の調整が多く、最終戦以降の昇進はまだ判明していない。アーチボルトは自身の昇進をミハルに語った。


「凄いじゃないですか!? って、偉そうですね。私……」


「いえいえ、ありがとうございます。ミハルさんも上級曹長への昇進おめでとう。退役予定ですが、予備兵には上級曹長として登録されます。復帰時には小隊を率いていただきたいですね?」


「よしてください! 私はもう……」


 ミハルは言葉を呑み込む。万が一、再び銀河系が窮地に立たされるのなら戦うと決めている。けれど、それ以外で戦闘機に乗るつもりはない。予備兵のままであればと願っている。


「じゃあ、司令はこれからもレブナに?」


「そうなるな。私だけ残るのは何だか悲しくなっているよ。ミハル君のことは実の娘のように思っていた。アーチボルトはともかく、ミハル君がいなくなるのは娘を嫁に出すような心境だよ」


 顔に似合わぬ冗談に、ミハルは苦笑いだ。しかし、この冗談はまだ続くらしい。


「私もミハルさんのような娘が欲しくなりました。やはり息子ばかりでは華がないなと痛感しております。まあそれで頃合いを見て、ミハルさんには何か贈り物でもしましょうか」


「アーチボルト、私の話に乗っかるんじゃない。ミハル君、私も何かプレゼントしよう。世話になった礼がしたい」


 思わぬ話だが、親の年齢よりも上の二人なのだ。プレゼントされても恐縮するしかない。


「だったら、花を贈ってください! 私のデビュー戦に!」


 よく分からない話であったが、二人はピンと来ていた。

 ミハルはグランプリレース協会から特別に推薦状を受け取っているのだ。だからこそデビューとは初めてのレースのことだろうと。


「それなら、一番高い花を贈ろうじゃないか。もちろん、個人名でな?」


「私は司令よりも立派な花を贈りますよ?」


「アーチボルト、張り合うんじゃない!」


 歓談は終始笑顔であった。クェンティンは見送りに来られないようで、これが本当に最後である。


「本日は休暇のところ悪かった。何か予定でも入れているのか?」


 名残惜しそうにクェンティンが聞いた。最終日となる今日は何をするつもりなのかと。


「はい、キャロルと第七アルバに観光しに行く予定です!」


「ああ、第七アルバか。あそこは賑やかで良い街だ。きっと楽しめるだろう」


 最後にミハルはクェンティンと握手を交わした。


 次に会うのはいつになるのか分からない。だからこそ、その手は固く握られていた。

 長い時間をかけて、お互いの健闘を称え合うかのように。

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