届いた一報
セントラル基地では大騒ぎとなっていた。
実際の経過時間より十日も遅れて、銀河間戦争終結の一報が届けられたからだ。
「えええ!? ミハルさんの名前が予備兵に入ってるんだけど!?」
大声を上げたのはフィオナ・ハワードである。彼女は戦死者などの一覧を確認するよりも先に、どうしてか退役予定軍人の名前を見てしまったらしい。
「姉貴の名前もあるな……」
次に言葉を発したのはジュリアであった。何となく嫌な予感がした彼も予備兵の一覧を確認したようだ。
「お爺ちゃん、あたしも退役するから! きっとミハルさんはレーサーになるのよ!」
「駄目じゃ。お前はまだ何もしとらん。一人前になるまで退役は許さん」
「嘘でしょ!? 一人前って何すれば良いのよ!?」
騒々しい第三オペレーションルーム。待ちに待った一報であり、全隊員が集まっていた。
「しっかし、またミハルちゃんがトップシューターなのね。名実共にエースじゃない?」
「そうじゃなぁ。アイリスはやけに少ないが、何らかのトラブルかのぉ」
シエラの話にバゴスが同意している。一応は五番手となっていたけれど、彼女の実力からすれば物足りない数字であった。
「ようやく儂ものんびりできそうじゃわい」
「バゴスさんはもうパイロットを引退されるのでしょうか?」
マイが聞いた。
何しろバゴスはセントラル基地の主要な戦力。彼がいなくなっては負担が大きくなってしまう。
「そのうちの。しばらく前線のパイロットは戻ってこんじゃろ? セントラル基地に大勢が配備されるまでは戦うつもりじゃ」
「お爺ちゃん、ズルいわ! あたしはミハルさんと一緒にいたいのに!」
「駄目じゃ! 精進せい! ここに留まっておれば、木星にあるレース協会の資格を得られる。嬢ちゃんがレーサーになるのなら、地球に戻るよりも軍部にいた方がよいじゃろう」
レース協会は基本的にエリアごとの運営であった。交流戦やトップグレードレース以外はエリア内の面々で競うことになる。
移籍は可能なのだが、オープンクラス以下には認められておらず、地元密着方式のため、各地の養成所受験資格には、その地に三年以上の居住実績が必要であった。
「ジュリア君はどうするの?」
ここでシエラがジュリアに問う。姉であるアイリスが退役するのだからと。
「俺は軍部に残りますよ。ここでやることに疑問はありません」
毅然とジュリアは返している。自分の意志でセントラル基地に戻った彼は後悔していないし、やるべきことに気付いたようだ。
「ははぁん、あたしに恋しちゃったのね?」
「いってろ馬鹿。一休みしたら訓練するぞ?」
「ええ!? 終戦記念日まで訓練するのぉ?」
「うるさい。未熟な者は訓練していくしかないんだ」
「せっかく、うるさいのがゲートに行ったってのに、代わりが訓練フェチとかあり得ないわ!」
ミハルたちの去就は明記されていないけれど、概ね隊員たちは理解しているかのよう。
終戦との一報は笑顔を太陽系にもたらせていた。終わりが見えなかった戦いに終止符が打たれたのだから。




