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Solomon's Gate  作者: さかもり
最終章 未来へ
220/226

返答

 皇都レブナの制圧は三日を要して行われていた。


 考えていたよりも抵抗は少なく、ほぼ全ての兵が指示通りに降伏している。カザイン光皇の独裁によって縛られていた彼らは、命を賭してまで戦う忠義を持ち合わせていないようだ。


 肝心のカザイン光皇も無抵抗で囚われており、リグルナム星院家とヘーゼン星院家のゼクス解放軍と合流してからは、レブナに幽閉されていた者たちと兵士との区別も段取りよく行われていた。


 どうしてかミハルは司令部に呼ばれている。

 戦争終結の宣言時に彼女は演説するように命じられていたのだ。威圧的な絵面を緩和する意味合いだと説得され、渋々と了承してしまっている。


「まいったなぁ……」


 クェンティンとアーチボルトも一緒だと聞いて引き受けたものの、実際には光皇連の住民に向けてメッセージを発信しなければならないらしい。


 頭を悩ませながら、ミハルは司令部をあとにしていく。


 二時間後に終戦宣言をする予定らしい。それまでにミハルは気の利いた台詞を考えておく必要があった。


「やっぱキャロルに相談するっきゃないね……」


 親善の一環としての演説。下手なことを言えないミハルはキャロルに考えてもらおうと思う。


 通路を駆け出すミハルだが、直ぐに彼女は足を止めてしまう。前方からよく知る顔が現れたからだ。


「ミハル!」


 満面の笑みを浮かべながら近付いてきたのはベゼラであった。

 彼もまた終戦宣言の参加者であったけれど、ミハルは彼に相談するつもりはない。なぜなら、ベゼラからもらった宿題について、彼女は先送りとしていたから。


「終戦宣言に参加してくれてありがとう。私は感謝している」


「ま、司令に騙されて出るんだけどね……」


「騙された? どういう意味?」


 ミハルは先ほどの遣り取りを口にする。承諾する前は笑顔を振りまくだけの簡単な仕事だと言われたことについて。


「ああ、それな。アーチボルトの策だ。私は聞いていた。参加すると決めたあとで、内容を説明すると」


「マジなのそれ……?」


 マジだと答えるベゼラ。そのまま返す彼が少し面白かったけれど、笑い事でないのは事実だ。


「どうしようかなぁ……」


「ミハルの好きに喋ればいい。私はそれを望む。ミハルが適役といったの私だ」


 ミハルは閉口してしまう。ベゼラが提案者であれば、司令に文句をいっても始まらない。

 ベゼラは本当に母国のことを考えているし、彼の力になりたいのも本心だった。


「それでミハル、私は返事が聞きたい。返答によって演説はいらない。私が請け負う」


「え? 私は何も話さなくていいの?」

「私と結婚する。ならば妻だと紹介する。それで私が代弁する」


「そゆことね……」


 今もまだベゼラは本気なのだと分かった。どうしてか気に入られてしまって、デートもしたことがないというのに結婚を迫られているのだと。


「私は一般人だし……」


「それこそ改革が容易になる。星院家の皇子が一般人と結婚。階級を取り除くために良いことだ」


 断り文句の一つが潰されてしまう。ベゼラは光皇連にある支配階級を廃止するつもりらしい。一般人との婚約は皇子自らそれを実践していることになるのだという。


「私はトップシューターだからさ……」

「問題ない。カザインを討った英雄だ。ミハルは凄い」


 次なる文言も軽く論破されてしまう。ろくな断り文句を考えていなかったミハルは黙り込むしかなくなっている。


「ミハル、私は嫌か?」


 マジマジと見つめられると、恥ずかしい。もしもベゼラが太陽系の人間であれば、きっとミハルは受け入れただろう。


 しかし、現実にベゼラは異星系の男性であって、敵対していた側の人である。


「やっぱ無理だよ。私にも両親がいるし、敵国側の人と結婚だなんて不安がらせちゃう。私自身も正直に受け入れられない。私は光皇連の人たちの幸せを願っているけれど、パートナーを選ぶのであれば貴方じゃない」


 ミハルは言い訳を並べたあと、本心を述べた。

 ぼかして答えたとして無駄なのだと。ハッキリと断ることこそが誠意だと思った。


 しばらくミハルを見つめたままベゼラは沈黙を続ける。居心地が悪く感じられていたけれど、徐に彼が言葉を発していく。


「そうか……。じゃあ、友達は?」

「はいぃ?」


 突拍子もない話になり、ミハルは気の抜けた問いを返す。婚約どうのという話をしていたのに、いきなり友達だなんてと。


「友達だ。アイリスに聞いた。太陽系の人、友達から始めると……」

「ああ、そういうことね。友達なら構わないわ。別にベゼラのことが嫌いなわけじゃないもの」


「なら友達からだ。いつかミハルを手に入れる」


 どんな話をしたんだとミハルは思うけれど、アイリスの助言は意外とミハルにも役立っていた。この場で断るしかなかった話に選択肢が生まれていたのだから。


 このあと光皇連にある全てのアルバに向けて映像が流される。ミハルは素直な気持ちを住人たちに伝えなければならない。


 二つの勢力が共に手を取り合えるように。遺恨を少しでも抑えるために。

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