予想できる結末
皇都レブナでは必死の応戦となっていた。
戦況を見つめるカザイン光皇は大声を張って指示を出し続けている。
「機影が薄いぞ! 次なる機体を出撃させろ!!」
「陛下、もう残存する機体はございません! 既に光皇家直轄の部隊まで出撃済みです!」
練度を考慮しなければ、人員はまだ余裕があった。しかし、肝心の戦闘機が不足していてはどうにもならない。
「ならば兵は砲撃手に回れ! 一機撃ち落とすごとに褒美を授けると通達しろ!」
「承知しました!」
皇都にある砲台は基本的に各星院家の反乱を恐れて整備されたものだ。まさか異星系人の侵略にて使用するなど、カザイン光皇も考えていないことだった。
「反物質ミサイルは撃てんのか!?」
「砲台がございません! それに工廠が撃ち抜かれましたので、現存数は僅かです!」
どうにも上手くいかない。後手に回っているのは明らかだった。目減りしていく戦闘機の数を見ているだけで、頭痛を覚えてしまうほどに。
次なる策を考えていたカザイン光皇にオペレーターが声を上げる。まだ良くない報告があるようだ。
「陛下、ゼクス解放軍を名乗る軍勢が現れました!」
「何だと!? どこから現れたのだ!?」
「戦線の裏側です!」
あろうことか銀河間戦争をしている裏側に懸念していた反乱軍が現れてしまったらしい。ゼクス解放軍と聞いただけで、星院家が決起したのだと分かる。
「照合完了! 戦団の一つはヘーゼン星院家の艦隊です! もう一つはリグルナム星院家! 双方とも数は多くありません!」
ゼクスの重力圏を脱した二つの星院家。ろくな戦力を移動させていないことは分かっていた。だからこそ、放置していたのだが、この場面での登場は想定していない。
「迎撃しろ! 道連れにしてやれ!」
「承知しました!」
カザイン光皇は長い息を吐いた。
正直に反乱軍に裂く戦力はない。太陽人の猛攻に耐えられる気配すらない状況で同胞と戦う余裕などあるはずもなかった。
「ここまでなのか……」
抗い続けたカザイン光皇であったが、明確な結末を見ている。
残された全ての選択が破滅へと繋がっていることだけは理解していた。
◇ ◇ ◇
「プリンス、我らが皇都にタッチした一番手だぞ!」
アイリスは高揚していた。
それもそのはず、光皇連の本部へといち早く取り付けたからだ。さりとて、真っ直ぐに突き進んだ結果であり、この周辺は多くの敵機が彼女たちを狙ってもいる。
「アイリス、貴方は凄い!」
ベゼラもまた喜々として答えた。再び目にする母国。気持ちが逸らぬ理由はない。
密集宙域であったけれど、先の戦いと比べたなら、密度は低い。従って、深いところまで飛んできた二人だが、まだ余裕がありそうだ。
「撃ち墜とせぇぇっ!」
アイリスは重イオン砲まで操って、敵機を撃ち抜いていく。皇都レブナに到達した彼女は機体を反転させて、飛んできたルートを戻る。
何往復もしてやろうと意気込むアイリス。此度も彼女はトップシューターを譲るつもりなどなかった。
ところが、反転したところで後方からビーム砲が彼女たちを襲う。
「なに!?」
完全に沈黙していた砲台から、急に撃ち放たれている。
二人共が気にしていなかった。稼働している感じはなく、砲撃手はいないものだと決めつけていたのだ。
不意に撃ち放たれたビーム砲は機体を反転させたばかりのベゼラを捕らえてしまう。
「プリンス!?」
迂闊な行動だった。アイリスは声を大きくして問う。濛々と煙を吐く僚機に対して。
「左スラスター全損。既に切り離している」
迅速な応答に安堵するも、左側スラスターを切り離してしまったらしい。とてもじゃないが、戦闘を続けられない状態であった。
「追尾できるか?」
少しも気にしていなかったけれど、ベゼラの命は必ず守るようにと命じられていたことを思い出す。充分すぎる支援をするベゼラに、それはアイリスの脳裏から抜け落ちていた。
「何とかする。アイリスは大丈夫?」
「任せろ。貴様は私を誰だと思っている? M31においても、私は最強なのだぞ?」
スピードを落とし、敵機の優先付けを済ませた。アイリスは撃墜よりもベゼラの安全を重視する機動へと切り替えていく。
「小蠅が群がるんじゃない!!」
言葉にした内容を肯定するかのように、アイリスは迫る敵機の撃墜を続ける。ただでさえ目立つ機体。加えて、損傷した機体を引き連れている。狙われない理由などなかった。
「わざわざ棺桶に入ったまま現れてくれるとはな! 葬儀の手間が省けるというものだ!」
とても落ち着ける状況ではなくなったけれど、ベゼラは取り乱すことなく追尾を続けていた。
何の疑いもない。先の大戦で見た無茶に比べれば、基地への帰還など容易だと感じている。
「私は恵まれているな……」
前衛機であるアイリスに感謝を。民間のアルバを避けつつ戦ってくれる太陽系の人々に敬意を。
ベゼラはもう戦後の在り方を考え始めていた。
圧倒的エースを有するGUNSが敗北するはずもないのだから、自分は自分にできることを始めようと。




